歌の魔法
「す、すごいじゃないですか」
「ええ、そ、そうですよ」
「十年ぶりですよ」
そんな無理な励まし言葉を聞きながら、私は目を固く閉じていた。
今のこの状況を信じたくなかったからだ。
ここはラブール魔法学校。私は1年生の詩川宙良。
だから、最初に行う授業は魔学の前に、魔法の取得だ。私たちは、最初から魔法を持っておらず、学校で取得する。そういう決まりだ。
魔法は何種類もあって、大体の強さには順番がある。
まず、闇の魔法と光の魔法。この二つは最強とされている。
そして次に強い順に、命、水、風、火、土、歌だ。
私が取得したのは最弱と言われる歌の魔法だ。
悲しすぎて、涙すらでない。もちろん、声も喉に引っかかって出せなかった。私は歌が好きだ。でも……もう歌えない……。
そんな私がなぜ、歌の魔法を取得したのだろうか。
歌の魔法は歌うことで、魔力を発する。
歌えない私は取得する資格すらない。いや、ちがう。それは自分のいいように変えた言葉だ。私はそっと拳をにぎる。そうしなければ、感情を抑えられる気がしない。
言うならば、歌うことに対して怯えた私には取得する資格すらない、だ。
「その、落ち込まなくてもいいのよ。歌の魔法で活躍した人もいるんだし……なれる人数が少なくて、実績が少ないだけよ」
宙良さんには才能があるわよ、と先生はいう。
先生はこの学校に二十年以上いる。そういう言葉を何度もかけてきたのだろう。なんとなくそれが雰囲気で分かってしまった。
でも、諦めるのはまだ早い。二年生まで待てば、他の魔法も取得できる可能性がある。
「それまで、頑張らなくちゃ」
そう言葉にすることで、気持ちを落ち着かせた。
「まず、一年生で習う魔学についてこの時間は話します」
そういって、先生は話し始める。
今の授業は魔学だ。普通にわかる。私は、魔学は苦手なわけではない。むしろ得意。
実技は歌の魔法を使わなくちゃいけないから、たぶん全然いい点数が取れないと思う。
テストで百点中、九十点以上だった場合、Aクラスに移動。五十点以下だった場合、Cクラスに移動だ。ちなみに、入学当初のクラスはみんなBだ。一ヶ月に一回あるテストでどんどん変わっていく。
Cクラスの人間は、昼食もレベルが低いし、Aと、Bのクラスには馬鹿にされる。それだけは、絶対に防がなければ。
私は他の人には聞こえない声で自分を奮った。
「がんばろう……」
実際に声に出してみると、妙なやる気が出てくる。この現象の名前はなんというのだろう。
目標は全然達成できていないのに、もう、ゴールが目の前にあるような気がした。
......頑張らなくちゃ何も始まらないしね!
「はい、そこ! 話をきいているのですかっ!!」
......どっ、どうしよう。
体がビクッと震えるが、私じゃなかったらしい。隣の席の折野さんだ。後ろの席の子と、話していたらしい。でも、それは楽しくおしゃべり……じゃなくて、わからないことを聞いていた感じだったと思う。
でも、それを隣の私ではなく、わざわざ後ろを向いて聞く行動が、私には、とても悲しく感じた。いや、でも、後ろの子は、折野さんとよく喋っている子だったから、その行動に移るのは当然かもしれない。
「えっ、えーとー」
折野さんの声で、ハッとした。そうだ。そんなことを考えているひまはない。折野さんは今、困っている。それは、助けるべきじゃないか。私は意を決し、折野さんだけに聞こえる声で、答えを言った。
「答えは、水色、だよ」
折野さんはそれを聞いて、すぐさま、
「水色です!!」と答えた。
それがあまりにも大きい声だったので、みんな、あはは、と、笑った。先生も笑って、
「よろしい、ちゃんと分かっているのね」
とすぐに授業を続けた。その時、私の方をちらりと見て、すぐに黒板に目を向けた。
......こ、こわい。ご、ごめんなさい......。
そんな気持ちが吹き飛ぶみたいに、折野さんは、照れた顔で、
「詩川さん、ありがとう」
と言った。
とたんに、心臓がドクンと音をたてる。
クラスメイトに名前を呼ばれたのはいつぶりだろうか。嬉しすぎて、表情が固まった。でもすぐに溶けて、
「どういたしまして」
と笑い返す。
こんなに自然な笑みができたのは1年振りだ。
折野さんは深く考えなかったみたいだが、私は嬉しくて頬を綻ばせた。
こんにちは!
星乃いーふです。
この物語が皆様の心に響く、そんな作品にしたいと思っています(*^^*)
初心者ですので、温かな気持ちでお願いします。
精一杯頑張ります!