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君が笑う、その世界でまた  作者: 星乃いーふ
歌の魔法
10/10

クロ

 シロが私のこと忘れる振りをしたことを忘れる。

 そんな約束をしたけど、私は守れそうになかった。

 ——なんでそんなことしたの?

 ——シロは私のこと嫌いなの?

 いろんなことが聞きたいけれど、約束をしたからには聞く訳にはいかない。

 ……ねえ、なんで? なんで、シロは私のこと忘れる振りをしたの?

 きっと何か理由がある。

 あるから、きっと……。


 私は、そう信じていたい。


「……どうしたの?」

「う、ううん、何でもない」


 しばらくシロを見ていると、シロは不思議そうに聞いてきた。


 ……ああ! ダメダメ! 忘れよ、きっとこれこそが夢だったんだよ。


 現実逃避したくなる心をなんかとか留める。


「……やっぱり、さ。気にしてるよね?」

「な、何を!?」

「この前の……君を忘れた振りしたこと」


 まさかシロの方から言ってくるとは思わなかった。

 私は驚きでしばらくシロを見つめる。


「……き、気にしてないよ」

「嘘」

「う、嘘じゃないよ」

「ホント?」

「……うん」


 問い詰めるようにシロは聞いてくる。

 元々この件を忘れる、と言ったのは私だけど、それはシロが聞いたら嫌がると思ったからだ。

 なぜ、私が問い詰められているのだろう。

 話してくれるのだろうか。


「いや、ううん。気にしてる。シロ……話してくれるの?」

「……………どうだろう。話そうと思ったけど、頭がそれをするなって言ってて」

「?」


 頭が拒否をしているということだろうか。


「……ああ、やっぱり言った方がいいよね。君が傷ついた顔してるの、見てられないし。……本当に、ごめんね」

「……傷ついた顔、してた?」

「うん。追い詰めた顔してた。それも、僕のせいだから、僕が切り出さないとね」

「……そっか」


 何を言ったら分からなくて変な返しをする。

 ……私、傷ついてたの?

 シロに忘れた振りをされて、心がモヤモヤしていた。

 これが傷ついたということなんだろうか。

 

「……じゃあ、言うね。……まずは、本当にごめん。謝っても許してもらえるとは思ってないけど、本当にごめん」

「何言ってるの! 何か……理由があるんでしょ?」

「うん。でも……君に分かるかどうか……」

「バカにしてるの? ……って、私は馬鹿か。でも、分かる努力はするよ」


 分からないほど難しい理由なのだろうか。

 そうとは思えないけど。


「君は馬鹿じゃないよ。でも……ありがとう」

「えへへ、どういたしまして……?」


 ありがとうと言われるほど、いい事は言っていないけど、一応お礼を言っておく。


「……僕ね……君が怖くなったんだ」

「え……?」


 ——私が……怖い?


「それってどういう……」

「…………あ……? あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 突然シロが叫び声を上げる。

 

「ど、どうしたの、シロ?」

「あっ……あぁぁ。う、うぅぁぁぁ」


 獣の叫びのような声。

 シロは苦しそうに胸を抑えていた。

 瞳は優しさを帯びておらず、怒りと苦しみ、そして悲しみが混じったような感情を示していた。


「……し、シロ! その……えっ……と、どうすれ……だ、大丈夫?」

「…………あああああああああぁあぁぉぁぁァァァァァ!!」


 私は凶変したシロに驚きを隠せず、後ろに尻餅をした。


「……シロ?」


 怖くて目を瞑る。

 ……どうすればいいの?

 ねえ、シロ。

 どうしちゃったの?



 なんだか静かになって、私はゆっくりと目を開いた。

 ……シロ?

 

「あ……れ?」


 オカシイ。

 オカシイ。

 オカシイ。


 先程までシロが目の前にいたのに、シロは……。


 ——シロは消えていた。





 シロが消えてから五時間後——。


 ……どこ、どこ、どこ……!?

 シロ、どこ?



 ずっと、ずっと探す。

 シロを、優しい人を。

 まだ、シロに会ってから少ししか経っていない。

 恋を自覚したのもほんのついさっき。

 それなのに、どうしても惹き付けられる。

 優しい、光のような人に。


 この城の中は全部回った。

 なんなら四周ほどした。

 必死に探した。

 それなのにシロはまるで、逃げるように、私から離れるように見つからない。


 六時間が経ったとき、私は足を止めた。

 足はもう疲れで動かない。

 汗はもう出過ぎて出ない、とでもいうようにすう、と減っていく。

 ……歌の魔法ってホントに役に立たないな。

 一度も役立っていない。

 やった試しがない。

 もし、歌の魔法を使って、シロが助かるならば……。


 ——どんなに良かっただろう。


「ああ〜あああ〜♪」


 歌を歌う。

 そもそも歌の魔法の発動条件は?

 歌を歌うだけで何かできるの?

 過去の資料が無さすぎて確かめられなかった。

 もし、あのもっと真剣に調べていたら、もしかしたら、資料が見つかったかもしれない。

 シロを見つけられるのかもしれない。


 ……ねえ、シロ。今、どこにいるの?

 

 私が目を閉じていた時間は大体三、四秒だろう。

 その中でシロがいなくなるなんてこと、可能なのだろうか。

 やっと冷静さを取り戻してきた頭を使って必死に考える。

 ……窓は……開いてたよね。

 ということは窓から飛び降りた可能性が高いだろう。

 いくら混乱していた私でも、そばで人が通り過ぎっていったら分かる。

 だから、窓から飛び降りた可能性が高い。


 私が飛び降りた、という表現を使うのには理由がある。

 そう、それは。

 

 この建物が高すぎること。

 五百メートルは軽く超えているだろう。

 窓からの景色を見る。

 下の景色は一切見えない。

 そして、周りには『雲』があった。

 つまり、だいたい地上から一万五千メートルぐらいにある建物ということだ。

 ……高すぎ……ない?

 なぜ、これに気づかなかった……?


 なぜ、これほど暮らしていて、この事実に気づかなかった?

 いや、私はいつからここで暮らしていた?

 ずっと、でしょ?

 記憶はずっと、前から……。


 ……ない。

 記憶が、ない。

 私は、最初の記憶がない。

 母親の記憶も、父親の記憶も、友達や大切な思い出もない。

 あるのは、ひかりとの思い出やシロとの思い出のみ。


 なぜ。

 なぜ。

 なぜ?



 気づいたら走り出していた。

 ただ、怖かった。

 記憶がないというのは、こんなに怖いことなんだ。


 がむしゃに走る。

 どこを走っているかも分からない。

 ただ、走らないと心が落ち着かなくて。

 

「何してるのぉ?」

「……え?」


 ……だ……れ?

 私は足を止めた。いや、止めさせられた。

 冷や汗が止まらない。


 ただ、話しかけて来た人が、怖くてたまらなかった。「あー、急に話しかけて悪かったねぇー」

「い……え……」


 黒髪に赤眼の美男子だった。

 表情は歪んでいて、いかにも「悪顔」という感じだ。

 彼の周りには闇の魔法だろうか……。

 黒い空気が纏まりついていた。

 ……闇の、魔術者……ってことはもちろん強いよね?

 強くないわけがない。

 確か、シロも、そう言っていた。

 ……あれ?

 シロも、闇の魔術者だったはずだ。

 すごい偶然だな、と思った。

 闇の魔術者は滅多にいないというのに。


「君ぃ、面倒くさいこと、してるよねぇ〜」

「……面倒くさいこと、ですか?」

「うん、そうだよぉ〜」

「してるつもりは、ありませんが」


 こんな強い人にこんな偉そうに言ったら殺されるだろうか。

 でも、何だかこの人にバカにされている気がして、つい口から出てしまった。


「そうぅ? ……君ぃ、人探してるでしょぉ」

「……はい。それが何か?」


 何故それが分かったのだろう。

 でも、知る必要はないだろう。

 この人と喋っているとイライラする。

 早く話を切り上げたかった。


「いや、邪魔だと思ってねぇ」

「……何でですか?」


 そんなこと貴方に言われる筋合いはない、という目を向ける。


「——この世界を汚すもの。意味、分かるかなぁ」


 目の前の人は舌をペロリと出した。


「あ〜、分かんないよねぇ。君ぃ、馬鹿だからぁ」

「……馬鹿にするのはやめてください。……いい気は、しません」

「ああ、ごめんねぇ」


 軽い態度に苛つきを隠せない。


「……でも君ぃ、『シロ』って人探してるでしょぉ?」

「……っ!?」

「それが、悪いこととも知ら……」

「シロのこと、知ってるんですか!? 今、どこにいるか分かりますか!?」


 シロ、という言葉が出てくるなんて。

 私は一瞬で苛立っていた気持ちが消え、彼に詰め寄った。


「んー、知らないこともないけど…」

「知っていることがあるなら、私に教えてください! お願いします! 何でもしますので……」

「何でもぉ?」


 彼は唇を意地悪そうに吊り上げた。


「じゃあ、いいよぉ〜。代わりに君の命を半分ほどもらおうかなぁ」

「命……ですか?」


 何でもする、とは言ったものの命をもらう、の意味が分からなくて聞き返す。


「おや、知らないかい? 闇の魔術者は生命体の命を吸い取ることができる。しかも、その吸い取った命を力に変換できるんだよぉ」

「そんな、遊戯みたいに……」

「早く決めてねぇ。僕が君に情報を教えて命をもらう交換条件でいくかぁ、何もしないかぁ」


 答えは一択しかない。


「分かりました。私の命半分あげますから、シロの居場所、教えてください」


 彼は面白そうに笑った。


「んー、君ぃ、面白いねぇ。なかなか勇気あるなぁ。命を吸い取られるなんて、嫌なことだと思うけどねぇ」

「もちろんですけど、嬉しくはないですよ」


 交換条件のもと、だ。

 好きで取られるわけじゃない。


「まあいいよぉ。命と引き換えにだからねぇ」


 男は真っ赤な目を細めた。そして、手を私の方に向ける。

 私はごくりと唾を飲み込んだ。

 ドクン

 心臓が嫌な音を立てた。


「レート・ストロング」


 楽しそうに、愉しそうに、彼は人差し指を自分の方にくいっと向けた。


「リパング」


 次の瞬間、彼の手から赤い閃光が、そして私の体を貫いた。

 ……な、何、これ……。

 苦しい、目眩がする。足がガクガクして、動けなかった。

 そしてズルズルと体の中で、何かが引っ張られていくような感覚がした。 

 

 それは一瞬の出来事だったのか、それとも、長い時間が経ったのか、分からない。

 でも、これだけは分かった。

 今、私は命を取られたのだと。


「うんうん〜。これは良いねぇ。良い命だ。やっぱり、自分の意思で決めてもらった方が、格段にうまいよ」


 彼は美味しそうに透明な水色のボールみたいなものをペロリと舐めた。


「それは、私の命……ですか……?」

「うん、そうだよぉ」

「じゃあ、終わったんですね? 早くシロの居場所を教えてください」

 

 彼は苦笑いを浮かべる。


「んー、君は早とちりだなぁ。すぐになんか会えない場所にいるのにねぇ」

「……っそんなことどうでもいい! あ……ごめんなさい」

 

 つい言葉が荒くなる。

 命を取られたのだとしても、情報を教えてくれる大事な人だ。

 これで気分を変えられて教えたくない、などと言われてしまったら、元の子もない。


「……おし、えてください。……お願いします、早く早く……」

「あーもう、分かったよぉ」



「シロはね……僕の中にいるんだ。僕はシロであり、僕は僕だ」


 語尾に特徴のあった喋り方が突然綺麗になった。


「僕の名前は、『クロ』って言うんだ」


 その喋り方は、少なからずシロに似ていた。


読んでくださり、ありがとうございます!(´▽`)

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