赤い罪を、共に。
私は、覇道道正。
かつて使命を全うし、世界の救世主となった転移者にして、悪組織四天王にして、次元を支配する神だった男。
だが、世界を破壊し、組織という輪を破壊し、そしてただの小僧に敗北し、大層な肩書の数々は、一つ残らず消えてしまった。
「ここは……」
そして、気がついた時には、見知った懐かしい国にいた。
どうやってここまで来たのかわからない。
記憶がないからだ。
小僧に負け、見知らぬ声が聞こえてきたところまでは覚えている。しかし、そこから先が全て、まるで何もなかったかのようにすっぽり抜けている。
「思い出そうとするだけ無駄か」
頭を抑えながら、諦めの呟きをため息のように、ぼそりと落とす。
思い出せないというのは少々モヤッとするが、ないものねだりはよくない。
プライドを捨てでもねだりたくなった時は、あの小僧に聞いてみればいい。
教えてくれるかは分からないが、奴なら少なくとも知っているだろう。
こうやって後回しにしてもいいと思えるのには、理由がある。
私の目に写るこの光景。
私が滅ぼしたはずの国が、昔の姿に戻っていたのだ。
戻っていた……と言っても、国民はいない。
それは断言できる。
ただ、町の景観がそっくり昔に戻っていたのだ。
それだけでも、私の興味をひくのには十分すぎた。
道正ー!ごめーん遅れたぁ!
懐かしい声が聞こえた気がして、とっさに背後を振り向く。
しかしそこには、誰もいない。
だと言うのに、声が聞こえてくる。
やっと来たか、リック。どうして30分も遅れ……どうせ寝坊か。
すっげぇ道正!どうしてわかったんだ!?
三回連続となれば、誰でも感づく。次遅刻したら連続記録更新だからな。
ぐぅ〜!なんて不名誉な記録更新なんだ!まあ次なんてないだろうけどな!
それ前回も……まあいい。それより急ごう、限定パンが売り切れてしまう。
あっ、やべぇそうだった!走ろう道正!
魔王を倒すまでの数年は、とても楽しい日々だった。
私は、あの日々を一つ余さず覚えている。
たとえ、思い出すたびに、たった一夜の最悪に襲われようとも、私にとって、それに釣り合う以上の価値がある思い出だった。
リックのことだって覚えている。
出会った時から、目の前で魔王の配下に殺されたあの瞬間まで、一瞬一瞬を鮮明に。
気づいた時には、私はギルドの前にいた。
たとえ誰もいないといても、ここには、私の思い出が詰まっている。
扉を開いて中に入る。
中はやはり変わっていない。
何もかもがあの時のままだ。
懐かしい机のへこみ、リックとパディが腕相撲をして、勢い余ってやってしまったものだ。
ギルドの職員のお姉さんに、こっぴどく叱られていた。
それをみて笑っていたら、なぜか私も巻き込まれて……。
一番右端のギルドの窓口。
そこにいた、職員のお姉さんに恋心を抱いていたが、旦那がいると言われて、あえなく玉砕したのを覚えている。
その様子を見ていた姫が、なぜか嬉しそうにしていて……。
私は、確かにこの国に裏切られた。
仲間だと信じていた者に、昨日まで笑って話せていた人達に……。
しかし、この思い出は本物だ。
輝いていたあの頃をくれたのは、誰でもないこの国だったんだ。
今更、遅いのはわかっている。
今更、間違っていたなんて、遅すぎることぐらいわかっている。
だがそれでも、自身に問いたい。私のしたことは……間違っていたのだろうか……。
「それぐらい、わかりなさいよ」
声だ。
声が聞こえた。
知っている声だ。
知り尽くした声だ。
知らないはずのない声だ。
知っていて当然の声だ。
知っていなければいけない声だ。
あと何億年生きたとしても、ただの一度も忘れたくない声だ。
その声に振り向かされ、いつの間にか泣いていた私は、その声の主に泣き顔を見せてしまう。
そんな資格はないはずなのに、だ。
「姫……?」
幻でなない。誰かが化けたわけでもない。
確かに目の前に存在する、本物の姫だった。
彼女を見た時、私は、私を疑いはしなかった。
私には、信じれるだけの思い出がある。
本物だと判断するには十分なほどの、数々の思い出が、一瞬たりとも欠けずに、頭の中に残っている。
思い出を疑うことなど、私にはできなかった。
「やはりそうだ。忘れるはずがない……忘れていいはずがない!やはりアナタは、私の姫だ!」
言い切ったと同時に、私の頬に衝撃が走る。
これは痛みだ。頬を伝わり心に響く、怒りと悲しみが溢れた痛み。
これを私に与えたのは、紛れもない姫だった。
突然に頬をひっぱたかれて、私は言葉を失った。
「バカぁーーーー!力のために世界を滅ぼすだなんてバカよアナタ!アナタが守った世界を、アナタが滅ぼしてどうするのよ!」
もしかして姫は、怒っているのだろうか。
私のした所業に、彼女は怒りを向けている。
私の全てを殺したくせに。
「何をアナタが言うことか。私はアナタに殺された……私が何を殺そうと、アナタに咎める権利はない!」
私がとっさに放った、荒々しい棘の正体。
それは怒りだ。
やり場を失った怒りが、矛先を思い出したのだ。
怒りの矢は姫を目掛けて、ただまっすぐに飛び出した。
「そんなことない!」
はっ……と気づいたその時には、矢は届く前に落ちていた。
弾かれたのではない。
ただ、矛盾していたのだ。
まるで、矛先などなかったかのように、風がやんだかのように、誰かを射抜くこと無く床に転げ落ちた。
「全部聞いた。アナタがどうして、超能力なんて手に入れたのか……どうしてアナタが世界を滅ぼしたのか!だから怒ってるのよ!」
「何を言っている!私はただ、この国に復讐を成すために!」
わからなかった。
どうして矢が落ちたのか。
どうして反論してしまったのか。
どうして姫があんなにも悲しい顔をしているのか。
何もわからなかった。
だがしかし、怒りの矢は暴れ続ける。
ただ猛烈に、ただし弱々しく、見苦しく。
本当はなかったはずの物。
あるはずのなかった物。
私が作り出してしまった、最悪の魔物。
「私に……認めてほしかったんでしょ」
姫の一言が、魔物を静めた。
「自意識過剰なんかじゃない。ずっと上から見ていたんだもの。それに、最後の言葉を聞いてしまったから」
ー認められたかったー
記憶が途切れる直前に放った、紛れもない私自身の言葉。
私が吐露した、積もる思いの正体。
「だから私なの。私じゃなきゃ、駄目なの」
次第に気づく、私の犯した過ちの全て。
「あ……あ……ああ……あああああ……あがぁああああああああ!!」
頭を抱えて膝をつき、床に突っ伏し、悲鳴を上げる。
遥か昔の霞んだ記憶に生きる人々と呼応したかのような、悲痛で残酷な叫び声。
痛みが染み出し、泣き叫び、体が震えだす。
私の手を真っ赤に染めた、血の代行者たちが、同じ苦しみを与えるかのように。
「道正。アナタの手に深く刻まれた罪の印は、人が一生かけても償えない罪。決して消えはしません」
痛い……痛い……痛い。
痛くて怖くてたまらない。
しかしこの手は、赤く染まり続ける。
私の罪は、決して消えないのだと、奪い続けた代償なのだと、告げていた。
「だけどそれでも、私はこの手を握り、アナタと共に歩みましょう。この手を赤く染めてしまったのは、私のせいなのだから」
そして姫は、血でまみれた汚らしい手を、気にすること無く握りしめた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
私は謝り続けた。
罪を洗い流すためではなく、罪と向き合い続けるために。
惨めに、ただ誰かに届くまで。
現行のままだと、想定してなかった姫がクズすぎる問題が発生してしまうため、「私降臨の日」「戦いの後、最後の影」に変更を加えました。
要するに、姫をあんまりクズ認定できないようにサイレント修正しました。
ちなみに、ここ最近はブルアカとかドッカンとかソシャゲで遊びまくってました。
ついでにペルソナ3買いました。
追記
ラストシーン追加しました。
いっぱい謝らせました。
こっちの方が惨めで面白そうだったからです。




