僕は逃げない。もう絶対に、失いはしない。
「どうした?まさかこの程度で、私に勝てると思ったのではないだろうな?」
「いや、それどころか安心したよ。やっぱり僕の読みは当たっていたみたいだ」
圧倒的な力の差、即死攻撃、回復阻害。
この状況、はっきり言って不利だ。
……あとたった1ピースそろえばいい。
それで、勝ち筋が完成する。
駄目かもしれない。無理かもしれない。
不安が僕を襲う。一歩下がりたくなる。
逃げ出したい。
どこに……?
逃げて、その先には何もない。
僕が殺されるだけだ。
それ以上に、今逃げたら何も掴めない。
僕はとっくに選んだんだ。
誰でもない自分のために、前に進むことを。
進むと決めたら、見るのは正面。
たとえ、見えているのが高い壁でも、超えてみせるのが僕のやり方だ。
やるしかないんじゃない……僕がやるんだ!
駆け出す足に迷いはない。ただひたすらに走りながら、ファイアボールを放ち続けた。
そのどれもが、覇道の体を透けていく。
その行動を、足掻きと捉えて笑うだろう。
かつて自身を追い込んだ者を重ねて、落ちたものだと笑うだろう。
それでも、僕はひたすらに撃ち続ける。
たった一筋の勝ち筋を探すために。
「虫とはいえ、私を一度追い込んだ者がこの程度とは……。一撃で葬ってくれる」
覇道には癖があった。
攻撃の瞬間、しなくてもいいはずの動作をする。
指をぴくりと動かす僅かな動き。
僕はそれを、ここに来てから何度も見てきた。
癖をみた瞬間に回避行動をとれば、ギリギリかわせるはずだ。
しかしそれは、覇道がどこを狙うかを完全に読みきることが絶対条件。
落ち着け、集中しろ。お前なら、それぐらい余裕だろ。
かわしきれ、狂命。
1度目のサイン。
僕の予想が正しければ、アイツはきっと頭を狙う。
あることに引っ張られているせいだ。
姿勢を深く低くし走り続ける。
頭上を通り抜ける、俊足の風。
ファイアボールを撃ち返す。
勝機はまだ掴めない。
二度目のサイン。
頭に当たらないのなら、奪うは足だ。
宙にに飛び上がり、着地しつつそのまま走る。
たった一瞬前のことなのに、足元に感じた風が懐かしい。
ファイアボールを撃ち返す。
あと数撃で掴めそうだ。
三度目のサイン。
そろそろアイツは思い出す。当てれば勝ちって事実を。
広範囲の大規模攻撃。
だから今度は、ナイフの出番。
どんなものでも、これで弾けるのなら、玉が大きければ大きいほど、弾くのも容易いはずだ。
ナイフを構えると、大きな物とぶつかったという確かな感触が刃を通して伝わってくる。
その瞬間に僕は、その感触を後方に流す。
そして、僕は利用する。
このあと後方で起こるであろう大爆発を利用して、一気に距離を詰める。
背中に可能性エネルギーの防御膜を張る。
爆発の風に身を任せ、押し出された体が宙を舞う。
これでいい。
ファイアボールを数発打ち込む。
あと少しだ。
4度目のサイン。
決め手になると踏んだ攻撃をかわされ、距離も稼がれた。
もし、凶器を持った殺人鬼が迫ってきたらどう感じるか。
答えは、焦りと恐怖。そしてこれは、自分が安全だと思っていればいるほど強くでる。
だから、宙にいる僕を落ち落とそうと、必死になって撃ち続けるはずだ。
だから僕は、覇道に向かってまっすぐ落ちる。
そうすれば、狙うのはたった一点になる。
そこにナイフを構えれば、無敵ってやつだ。
攻撃と攻撃の一瞬の合間に、ファイアボールを撃ち込む。
勝機が見えた。やはりあそこだ。
そして、ついに間近に迫った瞬間。
覇道の首を狙って、ナイフを振った。
急降下で姿勢を崩した僕は、地面を転がる。
止まってすぐに、覇道の位置を確認する。
どこにもいない……いるとしたら、視界の外……。
背後だ!
「この一撃に反応するとは、私を追い込んだだけのことはある。しかし……盲点だったな」
次元をこねくり回して作り出しただろう剣を、ナイフで競り合う。
「盲点だって?」
「私はそのナイフで傷一つついていない。この意味がわからないほど、バカではあるまい」
「教えて欲しいね。バカだから」
「そのナイフでは、私を切ることも、叩くこともできない!つまり、私が貴様に負けることなど、万に一つもないんだよ!」
もしだ。もし、凶器を持った殺人鬼がいたとして、襲われている人がいたとして、もし凶器がただの玩具としれたら、襲われている人はどうするだろうか。
今の覇道のように、力を持つ人間のほとんどは、反撃に移るだろう。
だから、これで確実に決まる。
「誰がお前を切るだなんて言った?」
覇道がこの言葉の意図に気づく前に、剣を受け流し、本命の目前へとナイフを突き立てる。
狙いは、人体で言う心臓部。胸の中心辺り。
これで、チェック。
ナイフは刺さらずに貫通する。
だから良いんだ。
波動の体を貫通するからこそ、絶対的な勝機がそこにある。
僕が狙っていたのは、最初からこの一点。
覇道の心臓部に存在する、神の力の結晶。
これが、覇道の最大の弱点だったんだ。
カミノの力を覇道の中から感じた時、なぜか僕には小さく感じた。
神の力がここまで小さいはずはない。
だから、僕は仮説を立てた。
覇道と戦った時より、僕が弱くなったから、その大きさに気づけていない。だから、僕が今感じているのは、力の在り処なんじゃないか……と。
だから僕は探した。
なんどもファイアボールを撃ち続けて、どこかにあるはずの神の力の結晶を。
そして見つけた。
たとえ僕の攻撃が、覇道の体をすり抜けるのだとしても、この結晶は違う。
力の源ということは、力そのものを具現化した形。
このナイフで弾けないはずはない。
「貴様、何を!?」
ナイフに押され、結晶が動く。
覇道の背中にぶつかり、覇道が倒れかける。
今の覇道は、この結晶を入れているカゴの状態。
中の物を動かせば、カゴの中でカゴにぶつかる。
何もおかしな事はない。
「お前の敗因は、所詮人間だったことだ」
黒の命と引き換えに譲り受けた約1000万年分の可能性エネルギー。
残り全部、ここでぶつける。
それで僕は、この結晶を覇道の体外に押し出す!
恐ろしく強い力が込められたナイフで、結晶を押し続ける。
どれだけ強力な力をかけても、カゴは動かない。
なんせ、神を超えた神になったんだから。
「こんな……こんなことで!神の力を奪われてたまるかぁ!」
羽に集約したエネルギーが、一点に向かって一気に放たれる。
僕を消し飛ばすつもりだ。
何十秒にも渡って照射しつつげられる高出力ビーム。
本来なら、消し炭になっていてもおかしくない。
だが、歴が違う。
僕は傷だらけになるだけですんでいる。
それどころか、ビームを喰らいながらも力は全く緩むことはない。
「お前は所詮人間なんだ!どれだけ人間離れしようと、どれだけ人を虫と嘲笑おうと、お前が人間であったことは変わらない!たとえ神を超えた力を手にしても、考え方が人間のままじゃ、御しきれるはずないんだよ!」
本当は最初から勝ち目なんてあるはずない戦いだった。
それでも、勝機を見いだせたのは、その事実があったから。
たかが人間が神を超えたところで、力に自惚れるだけ。
実際、アイツの攻撃には、存在しないはずのインターバルがあった。
攻撃が通じないと察した瞬間、遠距離戦に徹底せずに近づいた。
そんなこと、神なら絶対にありえなかった!
「人間だと……!?この私が……人間だと……!?神である私を……そんな虫と一緒にするなぁああああああ!」
怒りのままに腕をつかんで振りほどこうとする覇道。逃げの選択をせずに、ただの力比べで決着をつける気だ。
そんな無意味な選択を、神がとるはずがない!
「お前は人間だ!力に自惚れるだけのただの人間だ!だからさっさと、力を持たないただの人間に、戻りやがれぇええええ!」
「負ける……?負けるというのか……?この私が……?神を超えたんだぞ!?もう少しで、全ての頂点に立てるんだぞ!?なのに……こんなところで……ただの虫如きに!?嫌だ……嫌だ……!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁああああああああああああ!」
最後にとどめを刺したのは、逃げる選択をしなかった、覇道のプライドだった。
結晶が、覇道の背中を貫いた。
イナズマイレブン延期しすぎて萎えそうなんだが?
チキンレース勝利確定演出すぎて、ふざけんな。
追記
一箇所だけフレイムボールと記載していたため、ファイアボールに修正しました。




