託された意思と、芽生えた意志。
「ねぇ。起きてよ」
ゆっくり、ゆっくり。
まぶたがゆっくり開く。
何回目かも分からない問いかけに答えるように、ゆっくりと。
視界がひらけていく中で最初に僕が見たものは、泣きそうな顔して強がるカディアだった。
「勝つって……言ってくれた……お土産持って帰ってくるって……言ってくれた……自分で言ったことくらい……守って……」
頬を伝う雫の線。
ピチャリと落ちて、頬にできる涙の跡。
僕の心をかき回す。
何も言えなかった。
何も聞けなかった。
ここにいる理由も。
みんながどうなったかも。
彼女の表情をみるだけで、全て理解できた。
そして、それを聞くことがどういうことか。
理解できないほど愚かじゃない。
「聞かなくていいんですか?」
「それができるほど、僕の心は汚れてないよ」
僕の隣に座り込んで、僕の顔を覗き込んでいる人がいる。
カディアのことだ。
僕は目を開けた時、ほんの少しだけほんの一瞬だけ、膝枕を期待してしまったけど、そんな甘い話はどこにもあるはずがなかった。
だって僕は、彼女を裏切ってしまったんだから。
僕は起き上がり立ち上がって、現状を確認する。
見渡すかぎり異常は二つ。
一つはあの大きな穴。
壁に空いているかのように、宙に浮かぶ黒い穴。
その様から外へ続く穴であると、なんとなく検討はついた。
おそらく、この空間には外側からの攻撃への体制が皆無だったため簡単に穴が空いたのか、もしくはとてつもない攻撃力を持って穴を空けたのだろう。
あれがいつまでも開きっぱなしとは限らないが、これでようやく外に出られるようになったということだ。
問題は二つ目の異常。
黒が見当たらない。
どこにもいないのだ。
すでに、あの穴から外に出てきしまった可能性はあるが、もしそうじゃなかったら?
黒の存在は、最後のワンチャンスを握る鍵になる。
何も残さず消えたのなら、勝ち筋が完全に途絶えたのと同じだ。
目をつぶって心の中を探してみても、黒がいるという感覚は掴めない。
黒はまだ帰ってきていないと断言できる。
ならどこに?
「カディア。黒見なかった?」
「黒?」
「もう一人の僕だよ。ほら、容姿もほぼ完全一致な……って、あの時はそれどころじゃなかったんだった。質問を変えるね。ここに来るまでに、僕と似た人とすれ違わなかった?」
カディアは首を横にふる。
あのバカがカディアに何も言わずにこっそり出てくなんてありえないから、まだここを出ていないと考えられる。
アイツ本当にどこ行ったんだ?
「……!?」
……。
いかなきゃ。アイツが作ってくれた勝ち筋を、僕が繋げなきゃいけないんだ。
アイツに勝ったから託されたんだ。
だから……それ以上に元々、勝たなきゃいけないんだ。
「ごめんカディア。僕は慰めの言葉すらかけてあげられない。反省の言葉も、謝罪の言葉も、生きていてくれた感謝の言葉も、全部。それを束にするよりも、やらなきゃいけない事を思い出したから」
それは何?なんて、聞かれてもいないのに。
教えて?なんて、言われてもいないのに。
歩き出して、でも心配になって振り向いた時に見たカディアの表情を見て、どうしてか言ってみたくなったんだ。
「世界を救う。使命とか、約束とかそんなの全部抜きにして、僕のわがままな善意で世界を救う。そんな誰にもできないでっかい仕事をやり遂げてみたいんだ! ……だから僕は、僕のために勝ちに行く。絶対勝つ……なんてことは流石に言えないけど、努力は全力でしてみせる。だから……行ってくる」
次に出てくる言葉は言えなかった。
いっぱい言いたいことあったけれど、それを全部言うには時間が足りなすぎたし、それを全部言ってしまったら、きっと辛い思いをさせてしまう。
そんな気がしたから。
僕は大きく空いた穴をぐっと掴んで、そのまま穴の中へと入って行った。
「全部言ってよ……聞かせてよ……。だって私はワガママなんだから……」
これじゃ私の方が自分勝手……。
そうじゃない。最初から自分勝手は私の方。
だから失った。
力も何もないのに、認められたい一心で人を利用しただけのただのクズ。
それが私。
「私は……自分勝手」
そろそろラススパ入りそうで安心してる自分がおる。
働きたくない。




