2.娘がほしけりゃうんたらかんたら
「旅行の費用を出してほしい……か。却下する」
サプライズは空振りに終わるかもしれない。
「どうしてですかお父様!私がいくら頼んでもバイトの一つもさせてくれないのに、そこを断るなんてあんまりです!」
必死に頼み込むも、なかなか頷こうとしないのには理由があった。
というか、あのお父さんは娘を溺愛している。
俺を組織に入れたいという要求以外は、だいたい飲んでくれるくらい娘に甘いことで有名だ。
ちなみに俺は知らなかった。だって、組織の人間じゃ無いからな!
まあとにかく、それには分かりやすいくらいの理由があったのだ。
「一人分なら飲んでいたさ。しかし……だ。どうして二人分も要求するのかね」
とまあこんな感じで、すごい目をギラギラさせながら娘を睨み付けている。
しかし、この視線は娘に向けられたものではない。
娘に費用を請求させる、もう一人の人間に対して向けられているのだ。
要するにあのお父さんは、娘に引っ付くダメな彼氏の存在を疑っているのだ。
まあ実際、「働きもしないダメなやつ」という観点では見事に的中しているわけなのだが。
「それは……万が一、悪組織に狙われてもいいように、ボディガードを雇おうと考えているからです」
さすがはカディア。この前の一件を隠しつつ、既成事実をこれからの事実にすり替えようというわけか。
やはり天才か。
しかし、やっぱり疑っているぞお父さん。
でもちょっと信じようとしてるところは可愛いぞお父さん。
「ならば、組織の人間を護衛につけよう。それで問題ないだろう」
「いいえダメですお父様。私のワガママのために、組織の人員を割くわけにはいきません。ですから、雇うべきだと私は思います」
妥協案を提示するお父さん。それでも退かないカディア。
そして白熱してきたとワクワクする俺。
やっぱりスポーツとかディベートとかってのは、見てるこっちも燃えてきちまうぜ!
こういう時間が一番楽しいってはっきりわかんだね。
そして、うーんと悩んだすえにお父さんが出した結論は、まあめんどくさいものだった。
「今から地図を渡す。地図に描かれた印の場所には悪組織の基地がある。そこを壊滅させられる人材であるなら許可しよう」
だがしかし、カディアは知っている。
俺が、それをたった一人でやってのけた人であることを。
というか、俺の強さを知っている。
だからカディアは軽く了承した。
へっ!誤算だったかなお父さん。まさか俺とカディアがつるんでるとは思いもせずに、そんなこと言っちゃうなんてなあ。
とりあえず、天井裏に俺がいると知れたらろくな事にならないことは確かなので、匍匐前進で天井裏を進み、善組織基地の外へ出て、カディアと合流することにした。
途中、バコバコ音を鳴らした気がしたが、たぶんバレないから大丈夫だろたぶん。
そんな感じで進む内に、気づけば侵入時に使った穴の前へついていた。
俺は入ってきた時と同じように、呪文を唱える。
「円を描く最適な機械」
光る指先で、俺が通れるくらいの円を壁になぞる。
すると、キュイイイイイイイン……という音と共に円の内側光だし、ズゴオオオオオオオン!っと大きな音を立てて消し飛んだ。
ま……まあ、最近の忍も忍ばないらしいしセーフセーフ。やっぱ隠密行動も派手な方がいいからな!よし!
敵襲を知らせるようなサイレンが鳴り響く中、俺は穴を通り抜け、その後ついでに穴を修復し、辺りをキョロキョロ見渡してカディアを探す。
「あっ、いた!おーいカディア」
おっと静かに。カディアのあの手の動きはハンドサインだ。
俺はそういうのは一切わからんが、愛で感じ取ってみせる。
えぇっと。ふむふむ。なるほどなるほど。
俺にはわかっちまったぜ。
口を摘まむようなあの動き!そして森の奥を指差した!あとあの笑顔!
間違いねぇあれは怒ってるううううううう!
今すぐ黙れ。あと森の奥で合流に変更っていってる!
やっべこれ絶対怒られるやつだ。
どうしよ行きたくない……けど行くしかないよね……。
後ろから迫ってきているであろうめんどくさい奴らに絡まれぬよう、俺はカディアを追うように全力で逃走した。
そして数分後、カディアの静かな怒りが俺を貫いたのは言うまでもない。
fgoacってアーケードゲーム遊んでるんですけど、格上としか当たらんのなんでなんすかねぇ……