19.どうしようもないから、考察でもしてみようか
「時間の逆行だと?そんなことが可能だっていうのか」
「体感するといい。ここからは、僕の世界だ」
タイムは自信たっぷりにそう言うと、攻撃を開始した。
そして、気づいた時には、その一撃が俺の体を打ち上げた。
「は?」
宙に浮かぶ俺の体に、思考が追い付かない。
気づいた瞬間、気づいたその時、気づいた今、体は地面へと叩きつけられ、風穴を空け、頭を踏みつけられていた。
理解できない。
たとえ理解しないにしても、気づいたときにはすでに攻撃されている。
ゆえに理解できず、ゆえに手も足も出ない。
「ねえ。君ってその程度なのかい? もっと強いと思ってたんだけど、残念だな」
あの野郎ぉ……バカにしやがってぇえええええ!
「ッ!消えた!?」
頭が突然消えたように、タイムの足は地面を踏みつける。
そしてそこに、狂命の姿はない。
「後ろの正面だぁああああああれだッ!」
瞬速雷豪の一撃ッ!
文字通り、回避不能の瞬速パンチよッ!
しかしそれが届く前に、めり込んだような打撃痕が身体中を埋めつくし、背面に吹き飛んでいた。
勢いのまま地面を跳ね滑った俺は、体を修復しながら立ち上がる。
たった一瞬で、何十年分の生命の魔力を失った。
こんな敵、今までで始めてだ。
俺に背後を見せていたタイムは、ついに俺の方へ振り向いた。
頬のかすり傷からにじみ出る血をぬぐいながら、屈辱を味わったような表情で、俺を睨み付けた。
ふとした瞬間、圧倒的に離れていたはずの距離をつめ、タイムはたった一瞬で俺の頬を殴り飛ばした。
首が捻れた。
「決めたよ。僕は君を、完膚なきまでに叩きのめすッ!」
どうやら、くだらないプライドってやつを傷つけちまったらしい。
しかしどうする。このままじゃ、さっきと同じくボッコボコに殴られるだけだ。
なんとかする方法を考えようにも、考える時間すら与えられない。
ならばせめて、少しでも長く考えるための時間がほしい。
こうなったら、この前のあれをやってみせるか。
そのころ、天空観戦席。
「どうなってるんですかあの速さ! それも、狂命さんが追い付けないほどなんて……ラーラさん、何もデータはないんですか?」
あまりにも一方的な試合を目の当たりにしたカディアは、それほどまでに狂命を苦戦させる能力の正体を、ラーラに問い詰めた。
「恥ずかしながら、まったくもってその通り。ワタシたち大幹部は、互いに干渉することを嫌う。だから、互いに力を見せるのはこれが最初で最後なの」
「最後……?」
帰ってきた答えは、決して期待通りのものではなかったにしても、それは気を引くのに十分なものだった。
「干渉することを嫌うのは、協力できないほどに強力な力を保持しているから。そして互いが、悪組織の頂点を狙ってる。あ、ワタシは違うからね?」
ラーラは念を推してそう言った。
「つまり、ライバル通しってことなのですね!」
ラーラの言ったことを、カディアはたった一言にまとめてみせた。
それを聞いたラーラは同意し、解説を続けた。
「そう。つまり能力を見せるということは、お前を倒して高みへ昇ると宣言するのと同じこと。この戦いは、大幹部の総当たり戦にみえて、実はただの逆シードなのよ」
「ラーラさん……」
そんな狂命ガン不利の仕様を聞いても、なんなら絶望的なまでに狂命がボコされていても、カディアはさほど不安を感じていなかった。
「解説、お上手ですね」
それどころか、ラーラを褒められるほどに、余裕があった。
それを聞いたラーラは、さすがにカディアに驚いた。
「えっと、アナタどうして不安も何もなさそうな声色で、そんなこと言えるの?失礼なのは承知で聞くけど、今の状況理解できてる?」
「はい、とっても理解できてます。それでも、あの人を信じられない理由にはなりません。約束のために天の果てまで追いかけてくるような人が、こんなところで負けるなんてあり得ません」
それは、決してラーラが納得できるような答えではなかった。
しかし、自分を助けてくれた時のことを思い出すと、不思議と納得できてしまった。
可笑しくて、少し笑ってしまうくらいにはラーラも理解できた。
あの狂命という男のあり方を。
そして、戦いのステージへと戻る。
「どうした。守ってばかりでは勝てないぞ」
さっきから何度も何度も攻撃されて、そろそろ限界だ。
実行するなら、次の一瞬以外にタイミングはない!
「これで終わりにしよう。僕は君に勝ち、組織の頂点を目指すッ!」
きたッ! 今しかないッ!
「|電子レンジ《スローモーション≫ッ!」
突如として出現した電子レンジが、その周囲を歪ませる。
そしてその歪みに、俺もタイムも飲み込まれてしまう。
「なんだ!? 動きが、急に鈍くッ!?」
電子レンジ。それは、回線の低下を招く最低最悪の道具。
ラグから回線切断までなんでもござれの俺の魔法だ。
そして、今のうちに情報をまとめよう。
改めて、タイムの姿を確認する。
年齢は若く、身長は俺と同じくらい。
体型は華奢な感じで、メガネをかけている……あと男。
どうみたって、俺を簡単に吹き飛ばせるほどの力を持つようには見えない。
異世界とは、想定外のことばかりだが、それでもそこまでの力を持っているとは思えない。
つまり、あそこまでのパワーを出せる方法は、超能力によるものの可能性が高い。
だが、アイツは言った。自身は時間の流れを逆行させることができると。
しかし、逆行なんかであそこまでのパワーを出せるか?
それに、逆行じゃないにしても、身体的変化が現れていない以上、強化系の能力じゃない可能性が高い。
なら考えられるのは、そういう変化の少ない超能力。
考えれば考えるほどわからない。だが、思考を止めてはならない。それ即ち、一瞬を無駄にすることと同じ。
とにかく考えるんだ、アイツの能力の正体をあばけ!
その時、タイムの動きに変化があった。
攻撃しようと凄んでいたタイムが、脱出を試みるように、力む体の力を抜いたのだ。
そして、少しずつ。歪みのそとへ向かって動き始めていた。
しかしその動き方には、不自然なところがあった。
拳をゆっくりと引きながら、もとの体制を維持しながら後ろへ下がる。
それはまるで、何かに逆らうかのような動きだった。
例えるなら、そう。この戦いの開幕と同時に、タイムへと射ち放ったエネルギー弾のような動き。
俺は直感的に、これが逆行なのだと感じ取った。
しかし、能力が逆行だけ。というのは納得いかない。
さっきもいったが、逆行で加速することはたぶん不可能。
いままでの敵の傾向からするに、能力複数持ちである可能性は高い。
逆行という能力を持っているのなら、安直な考えならば、その正反対の、時を加速させる能力。
俺の世界だと豪語するくらいならば、持っていてもおかしくはないが、それでもだ。
加速くらいならば目で追える。
というか、目で追える攻撃はいくつかあった。
しかし、何度かに一回。明らかに視界から消える瞬間があった。
いずれも、突如として攻撃を受ける直前。
はっきり言おう。
加速させるだけなら、視界から消えることはない。
なぜなら、どれだけ速く動こうと、俺の目は追いかけられる。
だから、見失うことはあっても、消えることはない。
ならば、考えられる可能性は、瞬間移動能力。または、時間停止能力のこの二つ。
他にあったところで今の俺には想像はつかん。
それに、止まった時の中で自身の時を加速させる。
なんて芸当が可能なら、いままでの超火力にも納得がいく。
そして、もし能力の系統が統一されている、もしくはこれらが全て同じ能力のものならば、時間の逆行、加速、停止の三つの可能性がもっとも高い。
ならば、その線でいこう。よし解除ッ!
歪みから解き放たれたタイムは過剰に時を逆行させたせいか、ステージの上を縦横無尽に飛び回る。
歪みから解き放たれた俺は、その場にスッと着地し、その様子を面白そうに眺めていた。
その様子から察するに、とりあえず逆行という能力を持つことだけは確定らしい。
そして、消えるような動きではなく、線で描けるような軌道な点から察するに、消えたことは異常であり、途切れる瞬間がないことから、時間停止でほぼ確定。
そして、この速すぎる動きも普通じゃあり得ない。
てわけで、時間加速もほぼ確定。
あとは、これをどう攻略するかだが……どうしようか。
なんて言っても、思いついたことをとにかくやるしか勝ち目がないのなら、俺はそうするしかないんだが。
一通り動き回ったタイムは、最初にたっていた地点にたたずんでいた。
それは最初にみたタイムの姿とそっくりだった。
「ずいぶんふざけた能力じゃないか。おかげで、乳幼児まで逆行してしまうのかと思ったよ。だが、おかげで頬のかすり傷はこの通りさ」
エネルギー弾が俺に当たらず消えたように、逆行してる間は、状態すらも変化するというわけか。
しかし、こうなったのが俺のせいだってことを知ってるところをみるに、記憶は逆行しないらしい。
都合がいいなその力。
「俺を生まれる前まで逆行ってのはできないのか?」
「できるさ。だけど、君の能力だって知っている。生命の魔力を増やしたら、何をしてくるかなんてわかったものじゃないからね」
「なるほどな。つまり俺は、逆行を対策しなくてもいいわけだ」
そういや結構前にバラされてたの忘れてた。なら警戒してくるのも当然か。
「だがやってやるッ!正面から突っ込んで、叩きのめして、俺は堂々次へ行くッ!」
「いったい……なにをする気だ」
タイムの問いに俺は答えない。
その答えは、力で示す。
やってやるよ1000万年ッ!もうなにも与えてやんねー、こっからは俺の時間だぜッ!
全身に力が満ち溢れる。いままで、1000万なんて量を意図的に使ったことはなかった。
だから知らない。
これから何が起こるのか、そして、これから俺はどうなるのか。
だがわかる。俺は絶対、アイツに勝てるってことだけはッ!
「|超究極加速生命……波動速連滅走覇王……絶対極限御門丸……つまりそれこそ、レッド・ソウル・マキシマム。もう一度だけ言ってやる。力の名は、レッド・ソウル・マキシマムッ!」
そして、その有り余る力の前に、思わず名付けずにはいられなかった。
身体中で加速し続け、止まることを知らないエネルギーの大航海時代。
俺は今、究極になっているッ!
グレンラガンはみたけど、劇場版はみたことないってそこの君。
螺巌編だけは絶対みるんだ。その選択に後悔はしない。




