16.俺の勝ちッ!
そして精神世界の今に戻る。
「だーれがクソガキですって? 良いわ、そんなに言うなら戦ってあげようじゃない」
「無駄が好きだな。言っとくが俺は勝つぜ?負ける気なんて微塵たりともないからな!」
俺の拳は、突如出現した壁によって阻まれた。
こんなものは出していない。ならば気づかれたとみるべきだ。
「やーっぱり。今ので理解できた。この世界はアナタに支配されたわけじゃない。激しく強い思い込みで動かしてるだけ。完全な支配権はこの私にある!」
支配権は今だ自分にあるとわかり、高笑いする黒ラーラ。
勝ったわけでもないのに、今から勝利宣言とは笑っちまうが、これで不利になったことに変わりない。
「くらいなさいなッ!」
足元の地面が割れ、競り上がるマグマに飲まれる。
全身を焼き付くされながら天へと打ち上げられた俺の体は焼けただれていたが、なんてことはない。
回復できると思い込めば……!
「そんな隙、与えるわけないじゃない!」
四方八方を囲む鋭く大きな針。
なるほど、針山地獄というわけか!
「針千本飲ォーますッ!」
全身を貫かれ、バラバラになりそうな体を必死に繋げながら、次の攻撃を予測する。
いや、それは無駄だった。この空間の主導権はアイツにある。よって、何が起こるかはアイツの自由。
だから予測不可能で考えるだけ意味はない。
つまりは反撃あるのみだ。
「極太レーザー照射準備……!」
どこからともなく取り出したメカメカしい見た目をしたバズーカ砲で狙いを定める。
「発射ァアアアアアアアアアア!!」
凝縮されたエネルギーが、空気をひりつかせながら押し進む。
「しかし無駄よ。アナタが教えてくれたじゃない」
レーザーに飲み込まれてなお、何事も無かったかのようにそこに立っている。
俺と同じ手を使ったのだ。
「それに、アナタは一つしか出せないかもだけど、私に制限はないのよねッ!」
ミサイルポッドのような形をしていたが、その一つ一つは先ほど俺が使った極太レーザーと同じもの。
つまりは、無数の破壊光線が俺を狙っている。
つまるところ、普通にやばい。
「数十連波式グレイトレーザービーム!」
手も足も出ない。この世界じゃ、アイツの方が高次元。
頼みの綱を使うにも近づかなければならず、そもそも近づけないんじゃ意味がない。
回復するのに手一杯だってのに、相手は俺の完全上位互換ときた。
いったいどうすりゃいいのかねぇ。
「好き勝手に名前つけやがって……極太レーザーだって言ってんだろうが……」
口から出るのは強がりばかり。しかし、精神面で劣った時点でこちらの負けだ。たった今だけは、この強がりに頼るしかない。
「強がっちゃうなんて、やっぱり可愛いわアナタ。そんなアナタに、ご褒美あげちゃう」
「ご褒美ぃ?またビームでもくれてやるってか」
「そんなちゃちなものじゃない。選択の権利ってやつよ」
俺と黒ラーラの間に、天秤が落ちてくる。
あの大きな連鎖していたものの一部分のような大きさで、皿は2つ。
大きいことに目をつぶれば、それは普通の天秤だった。
それが落ちてきた時点で、察しはついていた。片方の天秤にはカディアがいる。
それは絶対だった。
黒ラーラが選択……つまり実験と言い張る以上、天秤に乗るのは俺にとっての大切な人間だ。
しかし、隣にいる人間が誰なのか見当もつかなかった。
「さあ、選びなさい。愛する人と約束、アナタはどっちをとるのかしら!ちなみに、どっちもなんて選択肢ないから」
もう一人の人間。それは、アイツの片割れでもあるラーラ自身だった。
俺はそれを見て、絶句した。
「なんなんですかこれ!こんなの卑怯です!」
はっとして気づいたカディアが、黒ラーラに言う。
しかし黒ラーラは笑う。
「卑怯?そうねそうよね!だってアナタが助からないはずないもの!だって……あの男がラーラを選ぶはずないものねぇえええええ!」
ラーラは俯く。
「ラーラ、アナタもしかして……あの人が希望を叶えてくれるだなんて思ってたのかしら。まさか、こんな形で約束を叶えられるだなんて思っちゃいなかったわよねぇええええ!まさか、殺すから最後だなんて最低の最高な最後じゃない!」
黒ラーラは笑い、叫び、歓喜する。
彼女にとって、もう一人の自分の死ですら、エンターテイメントでしかない。
自分が絶対安全の世界で、他人を危険に晒して楽しむようなヤツ。
それが、黒ラーラだ。
「そうだ、信じたのがバカだったんだ」
黒ラーラの言葉を受けて、ラーラがぼつぼつと語りだした。
「アナタが貴族を殺した時も、見ることしかできなかった。もう二度と起こさないようにって、自分で自分を隔離して、接触を避けて、なのに……組織は私を爆弾みたいに使って見せた! そんなの……こんなの……私はどうしたらよかったの!」
それは、今まで溜め込み背負い込んだ全て。彼女の本音そのもの。
「組織の実験台にされた時、逃げだせばよかったの?逃げてそれで、逃亡者として殺処分されればよかったの? それとも、自分に怯えて、自分で自分を殺せばよかったの……?私は生きちゃダメだったの?ただ孤児院から連れ出されただけで、私は死ななきゃならなかったの?ねぇ、こんなのってないよ……こんなのクソだよ!! 」
そして、今までの彼女自身のこと。
「ねぇ……助けてよ……最後なんて言わないでよ……私を私でいさせてよ!!」
終わりを悟ってもなお、諦めない彼女の心が生んだ、最後の抵抗だった。
しかしそれを、黒ラーラは笑った。
「必死なぼやき。どっちみちアナタは終わりだっていうのに……まさに惨め!可哀想ったらありゃしない」
俺は……俺は……。
「狂命さん!」
らしくない俺を見て、ラーラは俺を呼んだ。
「自分の心を……信じて」
「さ、そろそろ結果発表といこうじゃないの。天秤はどっちに傾くのかしら」
俺の心を感じ取った天秤は、遂に傾く。
その結果を、黒ラーラはあざ笑った。
「ふふふ……ふははははは!まさかラーラの方に傾くなんて!よっぽど今のが情に響いたのかしら?まさか恋人を捨てるなんて意外な結果ね!」
そして、選ばれたラーラですら、その結果に驚いていた、
「私……どうして……」
「勘違いしないでください」
俺より先にそんなことを言ったのは、カディアだった。
「あの人はアナタを選んだわけではありません」
「そうだ」
俺は、この結果に憤怒する。
「俺は選んだ。どっちも選んだ。たしかに俺はカディアが好きだ。好きで好きでたまらない。だが命の価値は、ラーラもカディアも変わらない。たしかに人の価値に優劣はある。だがな!俺は好きだって伝えた、助けるって約束したッ!故にどっちも助けたい!それが出来ないというのなら……そんなくだらないルールなんぞ……!」
俺の拳に魔力がのる。命が燃える音がする。
俺の怒りの火が燃え盛るように、体が熱く燃えたぎる。
「ぶっ壊れちまえええええええええええ!!」
俺は、天秤を打ち砕いた。
「壊したっていうの!? なんでまだそんな精神力が残っているのよ!」
「それが俺だァアアアアアアアアアア!!」
糸電話の延長線、現実の俺と同じ動きをすることで、伝り届く命の鼓動。
今一度響かせてやるッ!俺の、怒りと、怒りの、本気の覚悟と怒髪天な究極をッ!
拳で撃ち抜くマインドブレイク!!
「また……変なものを流しこんできて!! そんなにアタシだけ殺したいっていうの!!」
「こんな程度で殺せるなんざ思っちゃいない!だから!!」
本気の、本気で、クソほど本気で!
「ぶっちぎる!」
精神攻撃をくらい、動きが鈍くなった黒ラーラを掴み、俺は大気圏に突入するかのような勢いで遥か彼方へ向かって飛んでいく。
「何をするの!? 」
「てめぇを連れて、精神世界の壁を突き破るッ!そんで、その外へ俺ごと閉じ込めるッ!」
空間に亀裂が生じる。俺と黒ラーラは、精神世界の外へと突き出る。
「そんなこと言っちゃだめよ?作戦は、隠すから作戦なのよッ!」
だが黒ラーラは、俺から抜け出して蹴り飛ばし、俺一人を外へ取り残した。
しかし、それこそが俺の作戦だった。
「ありがとなァバカ正直に聞いてくれてッ!おかげでここを支配できるというわけだッ!」
精神世界の外はどこでもない世界。故に、支配権を獲得できる。過去の経験がなせる技だ。
そして、空間に空間をぶつけると、双方の支配権を失い崩壊を始める!
経験とは素晴らしいッ!
「ぶちかますぜぇ!!」
衝突し混ざり合う世界。予測通りに崩壊を始めた世界から、落ちていく人々。だが俺は、ただ一人を逃さない。
「逃がすかよ黒いの!!」
ここじゃ支配権もクソもないッ!故に同等!故に優劣などそこには存在しない!
「やめて!ワタクシはただのラーラよ!」
「問答無用!! 死ね黒いの!!」
それが、ただのフリってのはわかってる。
そう確信できる理由がある!
「やめて!格好をみて!私の服は黒くないわ!」
「お前の髪の毛に聞いてみな!可愛いうさちゃんステッカーじゃねぇか!」
俺がどさくさにつけた目印だッ!こうなることだって予測済みなんだよ!
「印なんてつけてやがったのね」
「それだけじゃねぇ!ラーラはワタクシなんて言わねぇ!アイツはいつでもワタシと言った!それがお前の敗因ダァアアアアアアア!!」
拳にたぎるぜ最後の一撃、怒りにたぎるぜ炎のファイア!
「超究極精神攻撃!!」
黒ラーラの世界のヒビは深く。今、砕け散る音がした。
「ああ……結局わからなかった……命の……価値……ワタクシの価値は……」
「そんなもん、自分で決めろ。バーカ」
暗い闇へ落ちていく。底へ底へと落ちていく。
しかし俺は、その先を知っている。
だから俺は、ただ身を任せ、そっと目を閉じた。
へっ!てこずらせやがって!やっと一人かよクソが!あと三人くらい倒してやるよバーカ!
リズムにのるぜぇ!




