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12.現れる大幹部

目が覚めた。どうして目が覚めたのかはわからない。

土産屋を出て少女と遭遇して、それからの記憶が曖昧だ。

だが目が覚めた。そしてそこは、地獄のような場所だった。

様子が……ではなく、見た目が……だ。

マグマが見えるし、なにより全体的に、地面すらもが赤い。


「やっときたね。待ちきれないから早く起きてくれよ」


俺の目の前に、にやける少女が立っていた。

その容姿は、さきほどの少女そのものなのだが、どこか別人のような雰囲気を醸し出している。


「ここは……」


ありきたりな台詞を吐く。起き上がり辺りを見渡す。

とりあえず分かるのは、たくさんの人がいること。

その人達の共通点は多く、見る限り男だけだということ、全員が大人であること。そして、誰かを探しているようだったということだ。

ちなみに俺は例外だ。なんせ17だし。大人じゃねーし。


「ここ? ここは運命の間(ジャッジメントルーム)。私がそう名付けたの。どう? カッコいいでしょう?」


というわけで、明らかに前とは様子が違うし、明らかに仲間外れだし、なんか偉そうでムカつく。


「おらぶっ飛べェ!!」


だからとりあえず全力で殴った。殴り飛ばされた少女は、なんども地面に体を打ち付け、ようやく止まった時の表情は、何が起こったのか理解できず困惑している顔だった。


「へ……?え……?殴った?私を?幼女を?どうして?」


「幼女だろうと何だろうと、怪しいのならラスボスと思え。敵が超能力者なら尚更だ」


「なーんだ知っていたのね。なら一応、自己紹介でもしようかしら」


痛そうに殴られた頬を撫でながら、名乗り始めた。


(ワタクシ)は悪組織大幹部の一人、ラーラと言いますの。早速で悪いのですけど、アナタ方には実験に付き合ってもらいますの」


どよめきが聞こえてくる。

実験というワードもそうだが、<悪組織大幹部>という得体のしれないワードが、いっそう恐怖をそそったのかもしれない。


「冗談じゃねぇ!そんなことより、俺の家族はどこに行ったんだ!」


どよめきの中から聞こえてくる数々の罵声。

帰せと言うものもいた。

だがしかし、多くを占めていたのは、「大切な人はどこにいるのか」という趣旨のものだった。

ここまでの罵声を浴びてなお、ラーラは平気な顔で話し続けた。


「実験のテーマはそう!命の価値!優劣!人の命の価値は平等なのか。そういう実験です。安心してください。ちゃんとルールにのっとれば、あなた方に命の危機はありません。そして、私を殴りやがったそこのバカ。アナタは参加しなくて結構。変わりに、お友達と一緒に特等席での閲覧を許可します」


ぺらぺら早口でそんなことを……。

え?閲覧?


気づいたときには、既に別の場所にいた。

え? えぇ!? なにがどうなってんだこれ!?

地面は、さっきいたところと似ている。ただ違うのは、さっきのよりも圧倒的に小さい小島のようなところであるということ。

そして、人影は二人……カディア!!


知らぬ間に、横で倒れていたカディアを起こす。


「……、ここは?」


ありきたりで当然な反応。しかし俺は答えられない。


「この世界の名は審判の間。もう一人の私が作り出した疑似世界。そしてここは、モニタリングルーム。自身に反抗する可能性のある人物を閉じ込め、無力だと教え込む場所。いわゆる牢獄」


しかし答えた者がいた。

俺とカディアの隣で、見慣れたように遠くを見つめる少女ラーラだった。


「もう一人の……私?」


疑問。しかし、俺はその答えを察せた。

だから、外を見下ろしに歩いた。


「私のことは殴らないんだね」


「するかよ。お前からは、邪悪さが欠片も感じられない。いわゆる、別人格ってやつなんだろ」


「話が早い。だけど、どこでそれを知ったのかな?」


「そんなもん、感に決まってんだろ。ばっかじゃねーの」


俺の軽い一言が、ラーラをムッとさせた。


「失礼なんだね。君は」


俺はそれに目もくれず、ただ一点を見下ろした。


「アイツが二人目だな」


その先は、さっきまで俺がいたところであり、もう一人のラーラがいる場所だった。


「えっと、これどういう状況……」


「俺達の意識だけをこの世界に引きずりこみやがったんだ。その上で、反乱分子をここに閉じ込めて、実験ってやつを始めるつもりだ。おそらく、そうとうエグいのがな」


状況説明は終わり。カディアは納得していないが、できるわけがないので、保留する。


「だったら、止めないと」


追い付いた思考を絞り、やらなくちゃならないことを見つけて語る。

だがしかし、俺はそれをなせぬと知っている。


「無駄だ。少なくとも今はな」


だからこその、無駄。


「無駄だなんて、やってみなければわからりません!」


ごもっとも。だが無駄だ。


「カディア。どうして俺が、こっから先に進まないと思う? それはな」


俺は、小島の端から丁度1メートルの地点にいる。なぜか。ここまで行った時点で、爪先の感触が、無駄だと伝えてくれたからだ。

そしてそれを示すため、俺は目の前に広がる何もないをぶん殴った。


ガーンと響く音。それが波紋のように広がり、目の前にあるのが何なのか見せつけてくる。

それは、我らを囲う壁だった。

ドーム形のそれは、邪魔されぬようにと行く手を阻むんでいるのだ。


「壁……?でもそれくらいの強度なら、魔法でも簡単に破壊できるはず……」


「いつも通りならな」


(わたし)が話すよ」


ラーラが割ってはいる。


「魔法使ってみてよ。どんなに弱くてもいい。たぶん当てれば壊れるから」


ラーラの提案をきいたカディアは、少し考えた後、魔法を使うため、手を前へとつきだし、指先まで集中しだす。

何かを考えていたのはきっと、怪しい少女が何か企んでるのではないかと考えたのだろう。だがそれは無駄だ。

ラーラがカディアにやらせた理由は一つ。説明が簡単になるからだ。


「魔力が……でない……?」


彼女は、自身の魔力を感じている。だが、出せない。

魔法を使えないのではなく、魔力が微塵も出てこない。

つまりこれは、魔法が妨害されているという訳ではないということ。

はっきり言って、異状だ。

しかし、俺にはなんとなく、理由は想像がついていた。


「魔力を持つのは魂や体。それらと繋がってるから魔力を感じるんだろうけど、ここにあるのは精神だけ。魔法なんて使えないの。だから、この程度のバリアでも逃げ出せない。だから無駄なのよ」


つまりはこうだ。

この世界は現実とは隔離された世界であり、何らかの手段で人間の精神を集めて実験するための場所ってこった。

精神は魔力を持たないから、魔法は使えない。生命の魔力も同様だ。

だから、このバリアも破壊不可能っという訳だ。

……よかったー、思ってた通りだったぁ! これでもし間違えてたら恥だったよ恥。イキってるだけのバカになるところだった……。

そういう恥ずかしいのは心のダメージがエグいんじゃ。

俺はこのまま、下の様子でも見てみることにした。


「アナタたちが求めるものはここにある。しかし逃げ出せば、それらの命の保証はできない」


「俺の家族は物じゃない!妻をどこへやったんだ!」


俺らを閉じ込めた、この精神世界の主導権を握る方の喪服のラーラ。彼女を黒ラーラと呼称しようか。

実験の開始が待ちきれない黒ラーラは、焦らせる男を笑い、天を指差した。

目の前の雲から光が差す。

それはゆっくりと降りてくる。

黄金に光るそれの正体は、いくつもの天秤が連なる天秤集合体。

それを見たラーラはこう呼んだ。

委ねられた結末(アンサーズ)と。


「見ての通り、多くの天秤が糸のようにぶらさがっているでしょう。綺麗よね、とーっても」


天秤から悲鳴が聞こえてくる。

見下ろせる俺からすれば、その理由は明らかだった。


「どうして……間違いない。あれは……マリン!」


男が天秤を見上げてそういった。

おそらくマリンというのは人の名前。焦りようから察するに、恋仲だ。

だが、俺からすれば、そのマリンは誰かはわからない。

なぜなら、天秤の皿全てに一人か二人、人間がいるのだから。


泣きべそをかく子供。それをあやす女。下に助けを求める女。

見る限り、子供と女しか見えない。


「お察しのとおり、あそこにいるのはアナタたちが求める者。今からアナタたちには、彼女達の重みを量っていただきます」


彼女の手の上に、小さな天秤が現れる。

天秤の皿にはそれぞれ、愛と金がのっている。


「ルールはいたってシンプル。今から一つずつ、私が天秤を選びます。アナタ達には、どちらの命がより重いのか……選んでいただきます。もちろん、同じ重さだというならそれでも結構。しかし、最終的により軽いと判断された方は……」


天秤が、愛の方へと傾く。

次の瞬間、金をのせていた方の皿が、勢いよく燃え上がった。


「見ての通りの丸焼け。ここにいるのはただの精神なので死ぬことはないのですが、永遠に目覚めることはないでしょう。もっとも、同価値と判断されれば、どちらも死ぬことはありません。ルールの説明は以上です」


手のひらの天秤が消え、金の燃えカスが舞っている。


「そんなことに従えるか!」


当然のように現れる、臆することなく立ち向かう者。


「嫌でも従うはめになる。でないと、こうなっちゃうから」


イヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


ある一つの天秤に、どこからかスポットライトが浴びせられる。

そこには、泣きじゃくる子供と、腕がすっぽり消えた女性の姿があった。


「ごらんの通り、この世界は私が絶対なの。ところで、精神が失くした部位って、現実でも動かせるのかしら。試しに今度は足でも奪って……」


「やめろ!わかった!従う!従うから!」


「従う? なんで上からなのかしら。参加したいのなら、お願いしないとねぇ」


お母さんと泣きじゃくる子供の声。あまりの出来事に気絶する女性。

追い詰められ、耐えきれなくなった男は、ついにおでこを地面に擦り付けた。


「お願い……します……!どうかこの私を……実験に参加させてください……!」


その様子にご満悦な黒ラーラは、満面の笑みを見せる。


「よく言えました。それじゃあ始めましょうか」


こうして、実験は始まった。















追記

眠れなさすぎてとんでもない呪縛のような何か生み出してて草生えたけど怖すぎるから消した。

このときの俺怖すぎるだろ。

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