97 山登り(1)
山の麓に広がる森は、ただただ真っ暗だった。
木があり、木があり、木があって、昼間だというのに木漏れ日ひとつない。
物語に出てくる魔女の住む家なんてものがあったら、きっとこんな場所だろう。
そんな風に思えるほど、森は鬱蒼としていた。
木の枝と発火剤のようなものを積み上げ、パピラターが叫ぶ。
「代理人としてパピラターが命じる。世界の遍く理。我が声を聞き入れ、炎となって燃え上がれ」
ボッ……、と音がして、そこにはパチパチと爆ぜる焚き火が出現した。
「おー」
パチパチパチパチ、とプルクラッタッターが拍手をして、食事の用意を始めた。
火の上に網を乗せ、簡易的なスープを作ったり、串に刺した肉を焼いたりしていく。
インスタントスープのようなものがあるのだから、なかなか便利である。
パピラターによると、魔法で野菜から水分を抜き取り密封して、なんてことをしているようだ。
この世界には、食料の研究をしている研究者もいるようだ。
二人と一匹で、思っていた以上に豪華な食事にかぶり付く。
「ここの森は、迷いの森と言われているの。まっすぐ進むのはとても困難」
「え……」
そんなゲームみたいなモノが本当にあるとは……!
「あまりにも方向を見失うから、木が生きているのでは、なんて言われているわ」
「木が!?」
「生きてる!?」
プルクラッタッターとロケンローが珍しく息を合わせて叫んだ。
周りをキョロキョロと見回す。
「ふ、普通の木にしか見えないけど……っ」
周りの木を見たけれど、木はしっかりと土に埋まっている。
上の方も、木らしい、硬そうな雰囲気で、人を迷わせるほど素早く動くとは思えない。
「本当……に?」
「本当に生きてるわけないでしょ……」
パピラターが呆れたように、プルクラッタッターとロケンローを眺めると、肉を一口頬張った。
食事後。
焚き火を片付けると、パピラターは、先頭を切るように歩き出した。
「えっ!?パピラター、飛んでいくんじゃないの?」
そうなのだ。
いくら迷いやすいと言っても、森は森。
上を飛んでいけばなんてことはない。
「歩きましょ」
振り返り、パピラターは神妙な顔をして言った。
「見て」
周りは……鬱蒼とした森ばかりが見える。
この中に……、歩かなくてはいけない理由が……?
パピラターが、森の中の一点を指し示す。
「あそこに木苺が実っているわ」
「…………うん」
確かに、そこには、木苺がふんだんに実っていた。
人の手が入らないからだろう。
パピラターが、静かな声で言う。
「美味しそう」
「…………うん?」
「これを見逃さない手はないわ」
「パピラター……、飛んだ方が楽なんじゃない……?」
「これを!見逃さない!手はないわ!」
フン、と鼻を鳴らして、パピラターが先頭に立つ。
それがなんだか面白くて、プルクラッタッターは「ふふっ」と笑った。
やっと、二人と一匹の冒険ものに戻ってきました。
ほのぼの百合ストーリーがメインの物語なのでね!!




