93 真っ暗な塔の中で(6)
ポフは、小さなパピラターに顔を寄せてきた。
「それで、パピラター。あなた、どうしてこんな場所に?」
「あたし……」
パピラターが考え込む。
何せ、ヒトに質問をされたのは初めてだ。
どう話していいのか、混乱する。
「あたし、虫図鑑が読みたくて」
「虫……図鑑……」
一体それが何だったか……といった様子でポフは少し考え込むと、「あ〜〜〜」と声を上げた。
「図書館にならあるな」
それを聞いたパピラターは、紅潮した顔を上げた。
「それって、何処!?」
パピラターは興奮して詰め寄るが、ポフはその頭を手で押しやり、
「まあまあ」
と、宥める時の声を出す。
「交換条件があるんだ。図書館を教えてあげる代わり」
「…………?」
「今日は実は、祭りの日なんだ」
「祭り?」
小さなパピラターは、頭をことり、と傾げる。
「そう。祭り。一晩中ずーーーーーーっと店が閉まらなくて、一晩中大騒ぎして。みんなでおめでとーって言いながら、楽しく過ごすんだ」
「楽しそう……」
正直、パピラターには祭りがどういうものなのか想像ができなかった。
人がたくさん居る場所にも、店が並んでいる場所にも、行ったことなんてないのだから。
“祭り”も“店”も、言葉でしか知らなかった。
ただ、ポフが目を輝かせて、楽しそうに話すことに興味があった。
「その祭りに、一緒に行って欲しい」
「……一緒に?」
祭りがどういうものか知らないパピラターにとって、それが喜ぶべき事なのかがわからない。
パピラターはただ、ポカンとするばかりだ。
「そう。私も祭りはちゃんと行ったことないんだ。誰かと一緒の方が、楽しそうだからさ」
とポフは言って、ウィンクした。
「わかった。いいよ」
パピラターのその“いいよ”は、何も知らないが故の“いいよ”だ。
祭りがどんなものか知らないけれど、それで虫図鑑が読めるのなら、それでいい。
ただ、一緒に“祭り”という所に行って、戻ってくればいいんでしょ?
威勢よく立ち上がったポフは、
「じゃ、行くよ」
と、パピラターの手を引いた。
威勢がよかった割には、ポフは腰を屈めて、周りの様子を見ながら、コソコソと歩いた。
人の声がすればしゃがみ、木と草の間を這うように歩く。
「……見つかったら危ないの?」
「そう。私もあなたも、見つかったら、祭りどころじゃなくなっちゃうから」
そんな風に歩いて、歩いて。
歩いた先に、長い塀があった。
塀は左右に何処までも続いている。
パピラターの背よりもずっと高いので、その向こう側になにがあるのかはわからない。
けれど、ポフなら、なんとか届く高さだ。
ポフが、塀に張り付いて、何度も周りを見渡す。
「よし」
小さく呟くと、ポフは塀にガバッと飛びついていった。
怪しげなお姉さんについて行く事にしたちびパピラター。
知らないお姉さんについて行って大丈夫なのか!?




