83 魔王城にて 3rd
魔王は、執務室の窓の下でうずくまり、項垂れていた。
「…………」
ケイタロウが、黙って魔王の背中を見つめる。
「本当に……これでいいのだろうか」
魔王が気弱な声を出す。
窓からの弱い光と蝋燭数本だけが頼りの部屋の中。
魔王が今、どのような顔をしているのかは、詳しく見ることはできない。
「とにかく、ヒトに迷惑がかかることはやめないと」
ケイタロウは優しく宥める声を出す。
「それは……解ってる。やめられるものなら……。けど、食料を何処かから手に入れないことには、民の命が……」
「食料を手に入れるためにいちいち町を壊滅させるのは効率が悪い。結局、隣接三国とまともに取引できるようにならないと、後はない」
「……そうだ……」
先王が崩御して5年。
奴隷取引や窃盗で成り立っていたこの国だったが、王となったのをきっかけに、健全な国を目指し、魔王は今までやってきた。
奴隷取引はやめた。
山脈を越え、人を殺めることも。
けれど、山脈に囲まれたこの国は、雲が多く晴天の日が少ない。
多くの植物は満足に育たない。
なんとか作れているものは、小さなカブに、レタスくらいが関の山。
動物を捕ったり、北の海で魚を捕ったりでなんとか生活しているが、もう満足に野菜が食べられないと知った民達は、反抗的にもなるだろう。
命にも関わることだ。
「光を作り出す魔道具を作る。そうすれば、ジャガイモなんかも育てられる。他の野菜も、種が手に入り次第、研究を進めよう」
「あ、ああ……」
「奴隷取引も……。西の砦に、奴隷商の集団が見つかった」
「なんだと……!?」
魔王が飛び跳ねるようにこちらを向いて立ち上がる。
「お……おぅ……」
突然目の前に迫る胸元に、ケイタロウがたじろいだ。
「奴隷は全て解放し、禁止したはずだ」
「砦の地下に、大勢の人間を閉じ込めてたよ。魔王様が買ってくれるからっつってな」
「な……っ!我ではない!」
魔王が手を握り仁王立ちになると、素足が露わになる。
「…………」
……一体どうしてコイツは俺の好みの格好をしているのか。
あの愛の女神とやらに落とされた時、目の前にこんな格好の女がいたものだから、一瞬、死ぬ間際のボーナスタイム的な夢かと思ったくらいだ。
……それにしては、過酷な生活すぎたがな。
「ケイオスぅ〜〜……」
魔王が、若干涙目になる。
「わかってる。誰かが魔王を騙っている。そのルートも追わないといけないし、こっちも時間がかかる。どれも気長にだが、このままだと国として成り立たないだろ……」
魔王が縋るようにケイタロウに近付き、ケイタロウが手を差し出した時、
「ゴッホン」
と、あからさまに大きな咳払いがした。
大臣達4人が、並び立ち、その様子を見ていた。
「…………」
邪魔をされ、恨めしそうに魔王がじいやたちを睨みつける。
「コホン、おひぃ様、我らずっと居りましたが?」
「わかっている!」
カン、と音をさせ、ヒールの足を前に出した。
「ふむ……」
とケイタロウがそのポーズを眺める。
「おひぃ様、視察団のメンバーも揃いました。こちらも進めねばならぬでしょう」
「……ああ。国の資産を洗い出し、外貨を得る。必ず国を……まともにしてみせる」
魔王の燃えるような赤紫色の髪が、揺らぐ。
決意を見せる眼差しは、空の光が無くとも輝いた。
魔王城がいつも暗いのは、魔道具のランプがあまりないからです。
基本、蝋燭。




