81 山を越える準備(3)
空を飛んで辿り着いた先は、そのビルの屋上。
そこには、確かにビルの内部へと入ることができる入口があった。
けれど、床部分に物入れかと思える木の扉が付いているだけだ。
「ここ……?」
プルクラッタッターが首を傾げる。
「うん」
流石に見慣れない木の扉に、パピラターもゴクリと喉を鳴らした。
その扉を開けると、階段が続いていた。
けれど、ここは1つ前に行った魔道具屋と違い、普通にライトに照らされた明るい階段が続いていた。
手摺も付いている。
「なんだ……」
二人はほっとした顔を見せた。
一方、ロケンローは、少し残念そうだ。
カツン、カツン、と階段を降りていくと、すぐにホールに着いた。
ホールにはエプロンを着けたにこやかなお兄さんが立っている。
「いらっしゃいませ」
「…………」
なかなか顔立ちの整ったお兄さんは、まるでスーパーの片隅でウインナーでも売ってそうなにこやかさだ。
店内は倉庫のようになっているけれど、ライトで明るく照らされ、まるでスーパーのような雰囲気だった。
実際、売っているものも、衣料品や雑貨など魔道具らしいものもあるものの、大半を占めるのが食料品のようなものだ。
「これも……魔道具?なの?」
プルクラッタッターが、食料品を見ながら首を傾げる。
「はい」
店員のお兄さんがにこやかに寄ってくる。
「大半は、魔法使いがよく使う薬草などの薬の材料となっております。それ以外にも、日持ちがする魔法がかかったパッケージの非常食。それに、魔法使い向けに、頭を使うときにいいとされるものも多数用意しております」
そう言われ、見ると、ケーキのショーウィンドウが目に入った。
プルクラッタッターがこの世界に来てから、とんと見ることのなかった、生クリームのケーキだ。
どれも、飾りとして花びらが乗っている。
こっちの世界では、フルーツや砂糖菓子よりも花びらが主流なのだろうか。
これが、“頭を使うときにいいもの”?
……確かに、甘いものはいいと聞いたことがあるけど。そういうことなのかな。
「ふむぅ……」
と、パピラターが、ケーキのショーウィンドウで悩む様子を見せた。
……あのケーキは流石に日持ちしないんじゃないだろうか。
それとも、魔法がかかっていて、持つようになっているのかな。
結局、缶詰めのようなものやパッケージングされた肉などの食品と、それに、ケーキを2種類ずつ買った。
それから、さらに3軒ほどの店をまわり、テントや調理器具、服などを揃えていった。
驚くことに、その全てがパピラターとプルクラッタッターの鞄の中に収まった。
宿に戻ると、パピラターが真剣な顔をした。
「これで、……やっと山を越えられるわ」
「…………」
そのいつになく真剣な顔から、目が離せなくなる。
それから、また明るい(というか、ちょっとツンとした)パピラターとプルクラッタッター、それにロケンローの二人と一匹は一緒にケーキを食べた。
「ふふっ」
プルクラッタッターが笑ったので、パピラターが訝しげな顔をする。
「チーズケーキが美味しかったんだよね?」
ロケンローが当たり前のように言う。
「うん、ケーキが美味しくて」
そう。
ケーキが美味しくて、あまりにも平和すぎて、なんだか笑えてきてしまったのだ。
「明後日、ここを発とうと思うわ」
パピラターが壁に貼った地図を示した。
「うん」
パピラターのその決意に呼応するように、プルクラッタッターが応えた。
さてさて、次回から山越えできるでしょうか?




