79 山を越える準備(1)
程なくして二人と一匹は、トレルニの町まで戻ってきた。
あの、町の中心まで行っても店舗が数軒しかないルールイエの町を思うと、この町は驚くほどに都会だ。
「まずは、ここ」
ビシッとパピラターが指差したのは、街中にあるとあるビルだった。
魔道具を扱う店は、どこもこっそりと経営しているのが基本だ。
入り組んだ路地や、人の少ない郊外。
この町にも沢山の魔道具の店が点在している。
店の場所の情報を集めるだけでも一苦労。そこからすでに魔法使いの実力が試されていると言われている。
パピラターは、ムゲン・ステラ流の弟子として、師匠の手伝いをしながら、そういった極意とも言うべき、魔女としてのポイントを教わっていた。
「ここの3階が店舗になってるの」
パピラターがドヤ顔で言う。
二人と一匹は、その5階建てのビルを見上げる。
「けどここ、入口がないね」
ロケンローが1階を示す。
確かに、そのビルの1階には、扉はあるけれど、どうみても個人の住宅だ。
上の方には小さな窓がいくつも並んでいる。
建物の右や左を見てみたけれど、どちらも隣の建物とくっついており、隙間らしきものもない。
パピラターは、そういった店を1軒ずつメモしてある小さなノートを取り出した。
「ここは、そうね、裏口から入るらしいわ」
「裏口?」
そこからは、二人と一匹で手分けをして裏の通りを探した。
裏通りは、そこから6軒先の建物を曲がったところにあった。
「何軒目だっけ?」
プルクラッタッターが数えながら歩く。
「7軒目」
とパピラターは答えたけれど、建物はどこまでも繋がっており、それを数えるのも一苦労だ。
ロケンローを建物と建物の間の目印にしてみたり、四苦八苦して、やっと7軒目らしき建物にたどり着いた。
建物の1階には、入口がひとつ。
「くぐっていいのかな」
プルクラッタッターが恐る恐る手を伸ばす。
「わっ!」
後ろから声をかけられ、プルクラッタッターが驚いて飛び上がった。
後ろを振り向くと、ロケンローが「てへへ」なんていう顔でプルクラッタッターを見ていた。
「何するのロケンロー……」
プルクラッタッターが恨めしそうな顔をする。
「何してるの、ふたりとも」
パピラターが呆れた声を出す。
パピラターが扉を開けると、そこは暗く、狭い階段のみが続いていた。
「行くわよ」
パピラターの靴が石の床にカツンと音をたてた。
パピラターはこんな道はほどほどに慣れているけれど、プルクラッタッターはそれほど慣れていない。
緊張しつつも階段を上がる。
手摺のひとつもなく、石が積み重なった壁が続く。
階段を昇ると、2階のあたりで廊下に出られるようになっていた。
そのあたりは明るくなっており、プルクラッタッターはやっとほっとする。
二人と一匹は、3階の廊下へ出る。
そこは、まるでホテルの廊下のようだった。
狭いけれど、赤い絨毯が敷かれ、壁のランプが明るく照らしている。いくつかの扉が並ぶ。
無造作に道具屋のプレートがかかる扉をくぐると、そこは確かに魔道具屋だった。
新展開です!やっと山脈を越えるぞ〜!!




