78 あたしのことを思い出せるように(3)
もらった報酬は、3枚のカードに分けた。
一つは、家を焼かれてしまったアリサへ贈る分。
アリサとその母親は、今でもこの町にいる。
町の人達に助けられ、なんとか生活はできている。
これだけあれば、数ヶ月は生活できるだろう。
一つは、山脈を越える分。
食料や、寝袋、テント、レインコートなど、全て魔道具で揃えないと。
暖かい時期とはいえ、何日も寒い山を越えないといけないことに違いない。
そして、最後の一つは、残り全ての金額を入れた。
まだ人で賑わう町の中。
出店に並ぶ商品にプルクラッタッターが気を取られている間、こっそりとプルクラッタッターの背中にある鞄の中に、報酬が入っている最後のカードを押し込んだ。
ロケンローがじっとこちらを見つめていたので、人差し指を立てて、「しー」という顔を作る。
「…………」
ロケンローは、少しだけ何か言いたそうな顔をしたけれど、そのまま何も言わずにいてくれた。
アリサの家は、いつも通っていた湖の釣り具レンタルの小屋を越えて、さらに向こうの小さな借家だ。
二人と一匹で歩いていくと、丁度アリサが洗濯物を干しているところだった。
「あ、皆さん」
二人と一匹に気付くと、アリサは嬉しそうな顔をした。
狙われることもなくなり、少しずつだけれど、元気を取り戻してきているようだ。
「いつまでも落ち込んでるわけにいきませんから」
なんて言いながら、アリサはいつもよく働いていた。
「これ、良かったらどうぞ」
と、パピラターが静かな声で言うと、アリサはピャ〜〜〜〜ッという顔をしたあと、手をブンブンと振った。
「だっ、だめですよ!皆さんはあたしを助けてくれただけでも十分なんですから!!」
「そんなこと言わずに……、頑張って釣ってきたから、お裾分け、もらってちょうだい」
パピラターが少しだけ首を傾げる。
その菫色の髪がふわんとするところを見ただけで、この美少女っぷりを発揮した全力美少女に敵うものはなかなかいない。
オロオロとするアリサも、最後には折れて、嬉しそうな顔を見せた。
「ありがとうございます。母も喜びます」
パピラターは、満足げな顔で鼻を鳴らした。
アリサの家からの帰り。
湖は、少し覗いただけでもまだまだ人でいっぱいなのが見てとれた。
レジャーがてら釣りをする人も多い。
そんな中、『号外』と書かれた新聞が、小屋の前に筒状に置かれているのが目に入る。
「…………」
なんだか、妙な予感がした。
プルクラッタッターが1部手に取る。
そこには、大きな見出しで、
『第二のヌシ現る』
と書かれている。
二人と一匹は一瞬沈黙し、弾けるように大きな声で笑った。
『湖のヌシは死の間際、子にその地位を譲った。新たに生まれた湖のヌシに、我々はどう向き合って行くべきだろうか』
手書きの文章をコピーしたようなそれは、プルクラッタッターから見れば、まるで怪獣映画の宣伝のようだった。
これから、キャラクター展開され、また観光地としてやっていくつもりなのだろう。
ここの町長もなかなか食えないやつである。
そんなこんなで、二人と一匹は、この町から旅立つ事になった。
「この町ともお別れだね」
パピラターは、湖を振り返って言う。
こののんびりとした生活は、手放したくなくなるほど温かいものだった。
けれど、もう行かなくては。
「パピラター」
プルクラッタッターの呼ぶ声がする。
振り返り、小走りにプルクラッタッターの元へ走った。
プルクラッタッターの胸に、金色のドラゴンのペンダントが輝いた。
やっと釣りエピソードも終了ですね!
いざ、山脈へ!




