76 あたしのことを思い出せるように(1)
翌日も、祭り気分が衰えることはなかった。
町は人で賑わい、そこかしこに屋台が並ぶ。
いつのまにか屋台街のようなものが出来ていて、町長は相変わらずそこで湖のヌシのオリジナルグッズを販売していた。
もうヌシは食べ尽くしたというのに、魚料理ばかりが売れているようだった。
「魚は食べ尽くしたね〜」
「美味しいけど、今は違うものが食べたいわ」
午前中から、二人と一匹は町を歩いていた。
湖のヌシを釣り上げた報酬を、冒険者ギルドに貰いに行くところだ。
「あ、クレープ!」
とプルクラッタッターが叫んだところで、クレープ屋さんを見てドキッとする。
「…………魚クレープ……?」
「…………ここでも……?」
とりあえず、普通に果物と生クリームが入ったクレープをいただいた。
町の中心地にある冒険者ギルドへ向かう。
町は、中心へ向かえば向かうほど賑わいを見せる。
町の中心まで来た時、パピラターは、
「そうだわ」
と声を上げた。
「ちょっと、買い物に寄って行ってもいいかな?」
プルクラッタッターは、「うん、もちろん」とにこやかに笑う。
パピラターは、プルクラッタッターのそんな温かい笑顔を、なんとなく、直視できずに目を逸らした。
町の中心地はすごい人出で、パピラターはプルクラッタッターと手を繋ぎ、先導していった。
「手を繋がないと、迷子になってしまうでしょ」
と言ったのはパピラターだった。
手を繋いだのは、迷子になりそうだからだ。
パピラターは、自分に確認するように、心の中で繰り返す。
それ以外の気持ちなんて関係なくて、…………だって、迷子になったら困るから。
パピラターが向かったのは、その町唯一の雑貨屋だった。
その雑貨屋は、魔道具も置いてある。
山脈越えに必要な品は、トレルニの町で改めて買う予定だ。
なので、今日の目当てはそれじゃない。
パピラターが目を留めたのは、茶色い木製のテーブルの上に数個並んでいる、ペンダントだ。
魔法のかかっている金のペンダント。
鍵の形が数個。
それに、星の形、花の形、と人気のモチーフが並んでいる。
その中に、一つ。
「ドラゴン、だね」
プルクラッタッターが嬉しそうに言った。
プルクラッタッターの紋章が星とドラゴンの翼なのには、特別な理由はない。
星は、プルクラッタッターが持つ魔法少女のイメージである星。
そしてドラゴンの翼は、相棒がこの世界に馴染むためにドラゴンの姿を取った事だけが理由だ。
プルクラッタッターには、特別、ドラゴンに思い入れがあるわけじゃない。
それでも、馴染みのない異世界に落ちて、ずっと一緒にいるドラゴンには、それ相応の愛着が湧いていた。
「プルクラッタッターは、魔力の扱いがまだ上手くはないから、こういうものを使うといいわ」
魔法を使う上で、大切なのは確固たるイメージを持つことだ。
上手くイメージするために、大抵の魔法使いは“魔法”に意識を向けるスイッチを入れるためのアイテムを持っている。
パピラターなら、大きな、ダイヤモンドのような宝石が付いた杖。
それを持つことで、条件反射のように“魔法”に意識を向けることができる。
パピラターが杖なしで魔法を使えば、きっと暴走してどんな魔法も立ち所に大爆発になってしまうことだろう。
その魔法使いにとってのマストアイテムが、魔道具ならばより一層の効果が得られる。
例えば、魔法を使う時、魔力を循環させ、扱う魔法とのクッションになってくれるもの。
ここに並んでいるペンダントもその類だ。
「これ、プルクラッタッターに、ぴったりだと思うんだけど」
そう、これはプルクラッタッターがまだ上手く魔力を扱えないから、上手く扱えるようになればいいと、そう思っただけだ。
けれど。
少しだけ、パピラターの声は震えた。
「うん、すごくいいね」
そうプルクラッタッターが言ったので、パピラターは少なからずほっとした。
すかさずそのペンダントを購入し、パピラターはその手にドラゴンのペンダントを握る。
自分の事を刻みつけるように。
そして、プルクラッタッターの首に、そのペンダントをかけた。
少し驚きつつも嬉しそうな顔をしたプルクラッタッターに、少しだけ泣きそうになりながらも、パピラターはほっとした笑顔を見せた。
魔法を使うための鍵という意味で、鍵モチーフが一番人気です。




