75 VS湖のヌシ(5)
ほわほわとした、取り止めのない会話が続く。
時々、冒険者ギルドの人がやってきて、ギルドカードの確認や、これからの意向なんかを聞きに来た。
それに、町長直々の“お礼”というのも。
「ありがとうございました」
そう言う町長は、どこか上の空で、大きな魚を眺めては、冷や汗をかいていた。
やっぱり……。
と、プルクラッタッターは思う。
この町は、この魚を観光のウリにしていた。
オリジナルグッズや着ぐるみまで用意して。
つまり、実は、この町長は湖のヌシを討伐してほしくはなかったのだ。
とはいえ、その討伐依頼によって観光地になっているので、取り下げるわけにもいかなかったのだろう。
そんな町長を見て、パピラターがいたずらっ子のような顔をしたので、プルクラッタッターもつい笑顔になる。
「この魚、どうします?討伐が依頼なので、持って帰っていただいても大丈夫ですよ。食べられるそうなので、食事にでもしますか。一度だけならギルドの方で運べますので」
ギルドのお兄さんがそう言うので、パピラターとプルクラッタッターは顔を見合わせた。
「食べられるって言ってもこの大きさじゃあ……」
そんなわけで、急遽、その日は町を挙げての祭りの日となった。
町の中心にある、この町で一番大きな食堂は大喝采だった。
食堂の中心にある大テーブルには、つい先ほどまでヌシだったものが据えられた。
その周りには、大量の魚料理。
焼いたもの、揚げたものが中心だ。
流石に生のままの料理はなかったけれど、スパイスの香りのするものや、魚のスープまで多種多様だ。
宴には、どうやら近隣の町からわざわざ来た人間も多いようだった。
この町にこんなに人が集まるものかと思えるほどのお祭り騒ぎだ。
宴は町長の挨拶から始まった。
青空の下、ありきたりな挨拶をする町長は、熱い涙を流していた。
パピラターとプルクラッタッターにはわかる。
あれは、悔しくて泣いているのだ。
それから町長は、着ぐるみを着て、食堂の前で、湖のヌシオリジナルグッズを売っていた。
これが最後の大売り出しと言わんばかりだ。
そんな町長の事を知ってか知らずか、オリジナルグッズは飛ぶように売れていた。
「何か記念に買っていく?」
ロケンローが面白がるように提案したことに、二人は意外と乗り気だった。
悩んだ末に、二人はお揃いのマグカップを買った。
湖のヌシが一際ポップに描かれているマグカップだ。
宴は、夜中まで続いた。
ほとんどただ同然で提供したヌシ料理は、夜のうちに全てなくなった。
二人と一匹も、食堂の特別席で魚料理をいただいた。
大きな魚なんてあまりおいしくは無さそうだけど。
ゴクリ、と意を決したように、プルクラッタッターは魚の揚げ物を見る。
遠慮なく、ガッと口に突っ込むロケンローを見ながら、プルクラッタッターも、揚げ物を口にした。
「おいひいね」
もぐもぐしながら、ロケンローが言う。
「確かに、美味しいわ」
パピラターもなかなか満足そうだ。
「ほんとだ!美味しい!」
湖のヌシは、思った以上に美味しいものだった。
パピラターとプルクラッタッターは、突然有名人になったかのように、たくさんの人に取り囲まれた。
中には、「この物語を本にしたいから、インタビューさせてくれ」という人までいた。
それは二人にとって、今までにない、ただただ楽しい日だった。
そんなわけで、湖のヌシエピソードはここでおしまいです!
また、旅立たないとね!




