72 VS湖のヌシ(2)
「ヌシがいれば寄ってくるはず。そもそもこんなに魚あっても、あたしたちだけじゃ食べきれないしね」
「ああ、……そうだよね」
ピシッとした顔で言いながら、ぼちゃん!ぼちゃん!と湖に魚を投げ入れているパピラターが、少し面白くて、プルクラッタッターは「ふふっ」と笑った。
「ヌシも餌付けできれば簡単なのに」
「そうすれば、言うこと聞くようになったり?」
「ジャンプしてくれれば、いい見せ物になるわ」
パピラターの言葉に、プルクラッタッターは、元いた世界の水族館でやっているイルカショーを思い出す。
イルカショーのようにヌシがジャンプするショー……。
5メートルはありそうな魚だった。
それを笛で操るパピラター。
確かにショーとして成り立つような気がした。
そして、また船の上に沈黙が訪れようとした、その時だった。
ズン……、と、重力を感じた。
一度感じたことのある、重み…………。
今度は、混乱することもない。
間違えるはずもない。
来たのだ。ヌシが。
二人で竿を掴む。
水面が、ボコボコと音を立てる。
「来る…………」
パピラターが、小さく呟いた。
ザバ……ッ!!!!!
ヌシは確かにその瞬間、竿の魚に食いついた。
その瞬間を見計らって、二人は魔法を使う準備を始めたけれど、竿は引っ張られ、堪えようとした二人をいとも簡単に転がした。
「きゃあっ」
そして何より、一番弱かったのは船だった。
ミシミシと音がしたかと思うと、バキン、と船の真ん中あたりが、そのまま割れた。
ガボ……。
二人が、湖の中に投げ出される。
ガボガボガボ…………。
「…………っ!」
溺れる……!!
すぐそばに、パピラターが力なく泳げもせずにいることに気付いた。
そうだ、水の中では、パピラターは魔法が使えない。
必死で、そばにいたパピラターの腕を掴んだ。
外!
外に出ないと!!
ステッキを水面に向けた。
「…………っ!!」
プルクラッタッターの魔法は、詠唱がいらない。
いらないということは、水に潜っているときでも使えるということだ。
ゴッ……!
大きく水を振り切る音がして、すごい勢いでステッキが水面に向かって行く。
振り落とされないように必死で掴まる。
そしてパピラターを落っことさないように、必死で腕を掴んだ。
ドン!!!!
すごい音と共に、空中に放り出される。
水面付近には、まだ、ヌシがバチャバチャと暴れていた。
大きな針が、竿ごと口にひっかかり、暴れているようだった。
その尾ひれが、プルクラッタッターを打とうとした。
いけない。
あんなのに攻撃されたら……、二人ともどこかへ吹っ飛ばされて大変なことになるだろう。
うわあああああ。
せめて衝撃に備えないと。
どうにかして。
どうにかして、パピラターを守るんだ。
貸し出す側にヌシを釣らせる気がないせいで、貸し出し用の釣り道具や船は、ヌシ釣りに耐えることはできません。




