70 許されないものは(3)
三人と一匹は、町へ戻る途中、話しながら歩いた。
女の子はほっとしたのか、よく話した。
「それで……お父さんが死んじゃったから……お母さんと二人で生活することになって」
その子は、二人でお母さんと生活し始め、家計の足しにするために冒険者になったばかりらしい。
やっとスープが作れるようになったとか。
色々試してみたけれど、薬草取りが一番時間がかからず収入になるとか。
そんな事を話しながら歩いた。
「私達も、冒険者になったばっかりなんだ」
「お姉さん達も?」
「僕もだよ」
「ドラゴンさんも!?」
「私達は、魔物が倒せるから、それで生活してるの」
「すごいなぁ。お母さんは洗濯の魔法が使えるんだけど、あたしは魔法なんてぜーんぜん」
女の子が呆れたような仕草をしてみせる。
「今は湖のヌシを狙ってるんだ」
プルクラッタッターがそう言うと、女の子は「あははっ」と笑った。
「ヌシを捕まえようっていうお祭りで釣ろうとする人は多いけど、誰も本気じゃないよ?見たことあればわかると思うけど、あれはね、ほーんとにおっきいの!ただの釣竿じゃ無理だよ」
そこで、パピラターとプルクラッタッターは顔を見合わせた。
「え……、もしかしてお姉さん達、見たの……?あれを」
「ふふふー」と意味ありげにプルクラッタッターが笑った。
「うわぁ!いいなぁ!あたしも今まで一度しか見たことない!」
そこで、プルクラッタッターが、何かに気付いた。
「…………ねぇ、何か、おかしくない?」
町の方が騒がしかった。
具体的には、女の子の家の方が、だ。
「ねぇ……、これ……」
焦げ臭さを感じ、プルクラッタッターが口を抑えた。
女の子の顔が、途端に蒼白になった。
立ち昇る黒煙。
この長閑な町に相応しくない、人の騒ぐ声。
「お母さん……っ」
走り出そうとする女の子を、パピラターが掴んだ。
「一緒に行きましょう」
「…………うん」
近付けば近付くほど、不安は恐怖に変わる。
それはもう誤魔化しようがない。
家が、燃えていた。
それは確かに、女の子の家だった。
「お母さん……?お母さん何処!?」
目の前にあった家は、すっかり炎に包まれていた。
町の人達が、湖から汲み出した水で消火活動にあたっていた。
「アリサ!!」
女の子の後ろから、声がかけられる。
「お母さん……!」
泣きながら、女の子が母親に抱きついた。
「……よかった」
二人はほっと胸を撫で下ろす。
そして、プルクラッタッターは、こっそり思う。
“アリサ”……?普通の名前?それが普通の名前なの……?
「代理人としてパピラターが命じる。世界の遍く理。我が声を聞き入れ、天より雨を降らせ」
パピラターの声が響き、空から大量の雨が降り注いだ。
町の人々もほっとした顔を見せる。
火はだんだんと燻り始め、消えて行く。
後には、真っ黒く焼け落ちた家だけが残った。
悲しそうに、親子がその姿を眺める。
「…………」
何も言えず、その背中を見ていると、
「大人しく奴隷になっておけばよかったのになぁ」
ボソリと呟く声が聞こえた。
パピラターが振り返ると、先ほど叩きのめした男達の中にいた一人が立っていた。
「あなた……が、火を付けたのね」
パピラターの声が震える。
「そうだよ」
男が言い切るのを待って、パピラターは杖を振り上げた。
先についている大きなダイヤのような石で、男を横殴りにすると、男はそのまま倒れ、気を失ってしまった。
「プルクラッタッター」
「…………パピラター」
「あたし、魔王のこと、許せない」
「…………そうだね」
この世界では、確かに喋るドラゴンが存在しますが、ドラゴンは魔物でも魔族でもありません。




