68 許されないものは(1)
まさか、魔王が女だったなんてなぁ。
きっと美人なお姉さんタイプだったんだ……。
なんて、そんなことを考えながら、プルクラッタッターは、その日のルーティンをこなしていく。
その日はそれまで、いつも通りだった。
けれど、魔物退治をする森の中で、何か声が聞こえてきた。
啜り泣くような、誰かを呼ぶような声。
「子供の声じゃない?」
「え……。ここは町からも離れていないし、迷子かな」
言いながら声の方へ向かっていくと、案の定、涙目の小さな女の子がいた。
「どうしたの?」
しゃがんで声をかけたのは、プルクラッタッターだ。
「あたし……ギルドで依頼を受けて、森へ入ってきたんだけど……、誰か知らない人に追いかけられて……。それで、迷子になっちゃったの」
立ち上がると、10歳程度の女の子だということがわかる。
「町まで案内してあげるよ」
そんなわけで、女の子と一緒にいることになったんだけど。
「おい待てぇ」
低い声がして、男が一人、草むらから出てきた。
「おじさん、何?」
パピラターが凄む。
「そいつは俺らの獲物なんだよ。置いてけよ」
大柄の男がそう言うと、それを皮切りに、大勢が草むらから出てくる。
10人以上はいる、その怪しげな男達は、誰もが棍棒のような武器を持っていた。
「その子供は、魔王様に献上すんだぁ」
「魔王に……?」
パピラターが反応する。
「子供を売り買いしてるって言うの……?」
「そーうだよぉ〜」
男は嬉しそうに小躍りした。
「今こそ変……」
プルクラッタッターが、変身を促すロケンローの口を抑えた。
(小さいといっても、ドラゴンの口を抑えるのは一苦労だ。)
「待って!!この人数の前で変身できない!!」
「……!」
ピンチだった。
「逃げるわよ!」
パピラターが先頭を切る。
しかし、こちらは子供連れな上に、森を走る事に慣れていない。
プルクラッタッターが女の子の手を引いて逃げたけれど、すぐに女の子が転んでしまった。
「がんばって!立って!」
プルクラッタッターが女の子の手を引き上げたけれど、結果追いつかれてしまい、女の子が男に捕らわれた。
「きゃああ」
「代理人としてパピラターが命じる。世界の遍く理。我が声を聞き入れ、彼らを天空へ!!」
男達が、女の子に気を取られている瞬間を見計らい、パピラターが詠唱する。
ばびゅん!!
そして、
「ひ、ひゃああああああああああああ」
プルクラッタッターが悲鳴と共に、空へと飛び上がって行った。
空の上。
プルクラッタッターの目の前は、青一色だった。
何これ何これ何これ。
遊園地のフリーフォールじゃないんだからさあああああああああ!!!
200メートルほど上空へ浮かび上がったところで、プルクラッタッターは重力に負け始めた。
ケイタロウは特にイケメン設定ではありませんが、魔王は美人なお姉さんです。




