63 雨の中で(1)
その日は、朝から雨だった。
居間の大きな窓から眺める雨は、ぴたぴたと音がした。
プルクラッタッターは、「雨の音は、元いた世界と同じだ」と、そんな事を思った。
赤い木枠の中に、木や花や暗い雲が収まっている。
しとしとと降る雨を見て、パピラターは、
「今日は魔物退治はやめましょう」
と言ったけれど、プルクラッタッターが振り返った時には、すでに釣竿とバケツを持っていた。
もし、魔王を倒したとしても、パピラターはここで釣りでもしてそうな雰囲気だ。
その時、私は?
私は、ケイタロウに会って、元いた世界に戻れているだろうか。
そうなると、またあの小さなマンションの窓から、雨の音を聞くことになる。
雨の音を聞きながら、また仕事をして。
けど、こんなに家を空けてしまって、マンションはちゃんと借りられているだろうか。
仕事をかなり無断欠勤してしまったけど、辞めさせられていないだろうか。
やっと、チームリーダーとして仕事を任せてもらえるところだったのに。
そうなると、また新しい仕事を探して。
「…………」
まだ何も技術のようなものを手に入れられた感覚もないのに。
転職。
転職かぁ。
……魔法少女に転職……。なんてね。
そこまで考えたところで、二人と一匹は、湖へ出掛けていった。
いつもより暗い湖の上で、ぴちゃん、ぴちゃん、と、レインコートから水が滴る。
寒いかと思ったけれど、そんな事もなく、意外と心地よい。
曇った暗い空と、それに呼応するかのような色の湖。
パピラターは、魔王を倒したらどうするんだろう。
聞きたいけれど、困らせたいわけじゃないからなぁ……。
ピンッ……!
「…………あっ!」
魚が……!
プルクラッタッターの糸に、何かかかった感触がした。
がっ、と船の床の上で力を入れる。
水面で、魚が跳ねた。
「釣れ……!!」
その時だった。
ズン……。
静かな……とても静かな、重力がかかった。
「パ、パピラター……?」
「うん。プルクラッタッター」
パピラターが、杖を握る。
何か……変……。
思った瞬間に、船が揺れた。
「きゃああ」
「今こそ変身だよ!プルクラッタッター!」
チャララ〜〜〜ン♪タラララ〜〜〜〜♪
揺れる船の上で、自然と身体が立ち上がった。
「怖っ……!怖あああああああああ!!」
軽快な音楽と共に、プルクラッタッターのすっとんきょうな叫び声がこだまする。
「変身しなきゃ危険なのはわかるけど、変身すること自体が危険じゃないかぁああああああああ!」
キュピーン!
あああああああーーーーーーー………………の響きとBGMと雨の音で、非常に騒がしい変身だ。
周りに人がいなくてよかったね、プルクラッタッター!
チャン!チャ〜ラララ〜〜〜〜〜〜♪
「煌めく天よりの翼、魔法少女プルクラッタッター!」
ポーズを決めたプルクラッタッターの横で、パピラターが立ち上がる。
「闇に生まれし雷鳴の使者、魔女パピラター!」
そこで、船がまた大きく揺れた。
「きゃあああああああああ!!」
プルクラッタッターは元の世界に帰るのでしょうか!?




