62 新しい生活(2)
パピラターは、思った以上に研究熱心だった。
この10日ほどで、トレルニの町にある図書館まで2度ほど通い、釣りの勉強をしていた。
ここルールイエの町には、図書館なんてものはないからね。
「ふむふむ」
なんて言いながら、今日はロケンローの尻尾の動きをずっと真似ている。
ぼんやりと糸の先を眺めるプルクラッタッターの方へ、突然顔を向けると、
「本物の魚のように動かすのがポイントみたいだわ」
とドヤ顔で言った。
「あ、それもそうだね」
晴れた空の下。
プルクラッタッターまで、「なるほど」なんて思いながら、竿を動かしてみたり、餌を変えてみたり。
のんびりとした時間が過ぎていく。
船の上から、遠く、小さな子供がヌシの着ぐるみのようなパーカーを着て走っていくのが見えた。
実際、研究の成果か、魚は時々釣れるようになっていた。
昨日はなんと食事に使えるほどの大きさの魚が3匹も釣れた。
プルクラッタッターは、「本当にヌシなんているのかな」なんて、そんなセリフを押し殺す。
まあ、朝から晩まで魔物退治をしているよりは、プルクラッタッターも楽しかったし、何より、パピラターが楽しそうだった。
基本的にツンツンしているのは変わらなかったけれど。
真剣で無邪気な横顔を見るのは、悪くない気分だった。
毎日、早朝から魚釣りに出かけた。
昼前に早い昼食を取って、そのままギルドに行き、魔物退治の依頼を受けた。
「ナイト・オブ・ブライアー!」
トゥッタートゥッタートゥッタートゥッター♪タララララララララ♪
いつもの、必殺技を使う時のBGMが流れる。
このBGMも、もう聴き慣れたものだ。
「アロー!」
魔物がくったりと倒れ込む。
「代理人としてパピラターが命じる。世界の遍く理。我が声を聞き入れ、彼の者を捕らえよ」
パピラターが持っていた縄で縛り上げてしまうと、二人は、ハイタッチをした。
「動きが良くなったね」
パピラターが、微笑む。
魔法で魔物を浮かべると、町へと足を向けた。
「でしょう!」
プルクラッタッターも、ちょうど感じていた事だ。
段々、体力もついてきたし、どう動いていいのか掴めるようになってきた。
魔法少女として体を動かす感覚も、身につき始めていた。
プルクラッタッターが魔物を眠らせることができるおかげで、魔物を納品する依頼も受けられるようになっていた。
牙や革は、武器や防具を始めとした色々なところで使えるらしかった。
なので大抵、猪のような魔物を相手にした。
「これで、ヌシが釣れれば、すぐにでも旅立てるんだけど」
パピラターがなんでもないように言う。
「だね」
と、プルクラッタッターがパピラターの横顔を見ながら返事をする。
ヌシなんて居ないんじゃないかって、1ミリも思った事がない顔だ。
もちろん、ヌシはいるだろう。
虚偽の依頼は重罪だ。
それでも、プルクラッタッターは、「本当にいるのかな」なんて思ってしまうのに。
パピラターの微塵の疑いもないその顔を、プルクラッタッターは、なんだか大切なもののように思えた。
ヌシはもちろんいます!
ギルドの依頼審査はけっこう厳しいんですよ。
 




