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61 新しい生活(1)

 新しい生活は、思った以上に居心地が良かった。


 家事を分担して行い、朝は釣りに出かけて、午後は魔物退治の依頼をこなした。


「まって。パピラターは包丁持つのやめようか」

 隣に立っているパピラターを、プルクラッタッターが止めた。

 せっかくキッチンがあるので、自分達で料理をしようとしたのだ。


 パピラターは、ニンジンを前に、両手に持った包丁を振りかぶっていた。


「え、どうして?」

 パピラターがきょとんとする。


「包丁はこうして使うの」

 言いながら、プルクラッタッターが包丁を使ってみせる。


「でも」

 パピラターがきょとんとした顔のまま、まな板の上を示した。

「これだと手を切ってしまうわ」

 真面目な顔だ。

 どうやら本気で、料理自体も初めてだし、見たこともないようだった。


「わかった。パピラターは見学」


 プルクラッタッターがそう言うと、パピラターは素直にじっと見ることに専念した。


 不思議なものだ。

 パピラターは、旅のしかたや戦闘については詳しいのに、料理はほとんど出来ないらしい。

 これまでと同じように、一人でいる時も外食ばかりしていたんだろう。

 ……一人で魔王を倒しに行くなんて、一体どんな生活をしていたらそんなことになるんだろう。

 確かに、冒険者の多い世界ではあるけれど。


 もしかして、今と同じように、報酬に釣られて勇者になるなんて宣言してしまったんじゃないだろうか。


 なんだかそんな理由も、パピラターならあり得るような気がした。


 ざっと作ったオムライスに、パピラターが拍手してくれた。

「きれい」

「うん。久しぶりに作ったけど、今日は特に綺麗にできた」

 プルクラッタッターが「へへっ」と笑う。


 スプーンで、一口、口に運ぶと、パピラターが泣きそうな顔をした。


 それはほんの一瞬だったけれど、プルクラッタッターは見逃さなかった。

 見間違いでもなんでもない。

 不味いという顔でもない。

 パピラターは、ただ、オムライスを味わいながら、悲しそうな顔をしたのだ。


「…………」


 プルクラッタッターが、何も言わずにただパピラターの様子だけを窺いながらもくもくとオムライスをつついていると、ふいにパピラターが顔を上げた。

「おいしいわ!」

 さっきの悲しそうな顔なんて、そんなものなかったとでも言いたげな明るい顔。


 仲良くなったからだろうか。

 こういうことが気になるなんて。


「こんな美味しいもの、初めて食べたわ」


 そう言いながらパピラターは、少し興奮気味に、本当に嬉しそうな笑顔になった。


 調理するところを見たこともないお嬢様か何かなのかと思えば、こんな平凡なオムライスを初めて食べたのだと言う。

 魔王を倒すと言って、一人で旅をしている女の子……。


 私が事情を知ったところで、きっと助けになんてなれないだろう。

 けど。

 目の前にいるこの子のことを、ふと、知りたいと思ったんだ。

のんびりほのぼの生活です。

これからは自炊が増えたりもするのでしょう。

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