59 湖のヌシを探して(1)
パピラターとプルクラッタッターは、その場で釣り道具を借りた。
竹のようなよくしなる植物で出来ていて、リールはついていない。先に糸がくくりつけてある。
船を借り、二人は湖の真ん中に出ていった。
普通の手漕ぎボートより大きな船で、二人で漕いでちょうどいい。
人はそれほど多くはないものの、この湖のヌシをウリに観光地化されているようで、同じように大きめの船で釣りに出ているグループが数ヶ所に散見された。
剣士のような人達や、家族連れ。毎日ここにいるようなおじいさんまで。
模型の魚をつけた釣糸を垂らす。
それから1時間後。
「きたわ!」
「……!?」
パピラターの糸が引かれ、竿がしなった。
パピラターがぐっと引く。
光を浴びて、竿が上へ引き上げられた。
パピラターが引き上げた竿の先には、魚がかかっている。
パピラターの手には、体長8センチほどの魚が乗った。
「…………」
さすがに、湖のヌシが体長8センチということはないだろう。
「まだ、最初だし」
「そうだよね」
パピラターが気を取り直して、その魚を糸の先に結びつける。
「まあ、大きな魚なんだから、大きなエサがいるはず」
それからしばらくして。
二人は、何の成果も得られないまま、船の中に転がっていた。
目の前の空は青くて、真っ白な雲が流れていく。
「まぶしい……」
パピラターが呟く。
「明日から、毎日ここに来ましょ」
「え?」
パピラターの心は、どうやら折れてはいないようだった。
「朝ここに来て、それから魔物退治。魔物だけでも最低限の装備は揃えられるわ。ヌシ退治が出来れば、魔王を倒した後もご飯に困らずに済む」
「うん」
振り回されているプルクラッタッターも、パピラターのその強気な顔に微笑んだ。
プルクラッタッターには、折れる事を知らないような顔で前を見上げるパピラターがいる事が、なんだか楽しかった。
こんなに楽しいのはいつぶりだろう。
プルクラッタッターの生活は、今までも楽しかったはずだ。
大学を卒業して4年。
小さいなりにやりがいのある仕事に恵まれ、仕事を覚え、企画を考えて、後輩を指導してきた。
休日だって潰して。
空いた時間で映画を観るのが好きだった。
魔法少女のアニメもずっと見ていた。元気の源だった。
それなりに友達もいた。
安心する家族もいた。両親に、ケイタロウ。
楽しかったはずだ。
空を見ることもあったはずだ。
つらいなんて、思ったことないんだから。
けど、仕事の合間に窓から眺めた空と、今見上げている空は、なんだか空の青さが違う気がする。
ガバッと、パピラターが起きて、その拍子に船がどぷん、と揺れた。
「研究して、計画を練って来ないと、このままじゃただのお遊びだわ」
パピラターがこぶしを握る。
プルクラッタッターが、「あはは」と笑った。
ヌシっていうくらいだから、かなり大きな魚のはずですが。
さてさて、ヌシは本当に釣れるのでしょうか。




