57 湖のある町(1)
翌日、二人と一匹は、西へ向かって旅立った。
目的のルールイエの町は、トレルニの町からそれほど遠くはない。ほんの数時間で着いてしまった。
この町に一旦やって来たのには、理由がある。
路銀が足りないのだ!
パピラターは魔王に狙われている身。
木を隠すには森の中。
静かに隠れるにはトレルニの町ほど大きいところもありだけれど、魔族が関わりそうな依頼をこなしてお金を稼ぐ以上、見つかる可能性も高い。
見つかった時に被害ができるだけ出ないよう、都会で滞在はしないようにしたいというのがパピラターの意向だった。
その町は、範囲こそ広いものの、湖を囲んだ場所に家々が点在しており、いざという時、人から離れられるんじゃないかと、パピラターは考えたのだ。
「きれいな湖だね」
「そうだね。なんでも、とても大きなヌシがいるとか」
それは、なかなかに大きな湖だった。
遠くに見える向こう岸は、広い草原が続いている。
所々に、確かに家が建っているのが見えた。
「ここだよ」
パピラターが先導しててくてくと歩いて来た先にあったのは、赤い屋根のいかにもかわいい家だった。
家の前には、可愛らしい花壇が、ピンクや青の大きな花を咲かせていた。
「……家?」
「そう。家を借りたの」
チャリン、とパピラターが見せてくれたのは、金色に鈍い輝きを見せる鍵だった。
「え…………」
トレルニの町を出る前に、パピラターが何か手続きをしていたのは知っていた。
けれど、まさか家を借りるなんて。
「ここに……住むの?え?」
「そう。ここで、1ヶ月ほどかけてお金を稼ぐわ」
「1ヶ月!?」
冒険中だというのに、それはプルクラッタッターにとって予想外の長い期間だった。
でもそうか。
1ヶ月なら、宿に泊まるよりはこっちの方が安上がりなのかもしれない。
「そ、そんなにお金ないの……?」
「…………」
パピラターは、顎に手を当てて、むぅっとした顔でプルクラッタッターを見た。
闇色のマントがひらりと揺れた。
「生活する分には問題ないわ。けど、山脈越えは普通は人間には無理なの。ランプも寝袋もテントも、全て魔道具で揃える必要がある。食料もちゃんとしたものがたくさん必要」
「なるほど〜」
パピラターがカチャリと扉を開けた。
「おお〜?おお……」
中は、思った以上に綺麗だった。
貸し主がちゃんと管理しているのだろう。
広い居間にキッチン、2階には部屋が三つ、バスルームもちゃんとついている。
二人はそれぞれ、一部屋ずつ個室を使うことにした。
ロケンローは、居間にちょうど猫のベッドが置いてあったので、そこで寝泊まりすることにした。
この町にはこれくらいのサイズの家が一般的なようです。




