55 ほっと一息(2)
宿へ戻ると、女将さんが、二人に話しかけてきた。
「お二人とも、温泉には入られました?」
「え……?」
二人で顔を上げた。
プルクラッタッターは、思う。
そういえば、この宿に来た時に説明されたっけ。
温泉なんて言葉、久しぶりに聞いた。
どれくらい久しぶりかというと、元いた世界で聞いて以来だ。
あまり旅行とは縁がないなりに、大きなお風呂は好きなわけだけど。
温泉、なんていう文化がここにもあるんだな。
パピラターは思う。
温泉……。
噂には聞いたことがあるけど、大体は大浴場なんだよね。
他人とお風呂なんて入ったことないし、知らない人とお風呂は……無理。
「この宿は、大浴場があるんですよ」
女将さんがにっこりと微笑んだ。
「お泊まりになっている方専用のお風呂なんですけど、今日は女性はお二人だけですから、どうぞ入っていってくださいね」
「ありがとうございます」
女将さんにつられて、にっこりとお礼を言った。
部屋に戻ってから、プルクラッタッターは新しい鞄にロケンローが入るかどうか試していた。
「…………」
無言で眺めるパピラターを尻目に、ロケンローをぎゅむぎゅむ押し込んでいる。
「入らなくもない」
「入らなくもないけど……」
鞄の蓋でロケンローを押し込むプルクラッタッターと、顔の潰れたロケンローが静かに言い合いをしている。
「あ、パピラター」
ふいっと、プルクラッタッターがパピラターに振り向いた。
「大浴場行く?先に行ってていいよ。私、ロケンローを外に追い出してから行くから」
「ロケンローを外に追い出す」というのはつまり、近くの水場に水浴びに行くのを見送るということだ。
この小さなドラゴンは、お風呂にこそ入らないけれど、なかなかに綺麗好きで、よく川や泉で水浴びをしている。
「はーい」
と言って、パピラターは大浴場へと向かった。
……他に誰もいない貸し切り状態ならいいか。
そんなわけで、パピラターは、初めての大浴場を体験した。
ガラガラと扉を開けると、
「わぁ、けっこう広い」
とパピラターは声を上げた。
かぽーん……。
確かに、誰もいない大浴場は、なかなかに気分の良い場所だった。
真ん中にどーんとプールのようにお湯が張ってあり、周りにはシャワーと椅子がセットで置いてある。
なるほど、なかなかに贅沢な場所だ。
「お湯が湧いてるなんて不思議」
それから暫くして。
プールのようなお風呂もさることながら、落ち着いたシャワーも贅沢だと、シャワーに向かってパピラターが石鹸の泡であそんでいる頃。
ガラッ。
と、扉が開いた。
「…………!!」
「うわ、すっごいお風呂〜!」
後ろの様子を窺うまでもなく、それはプルクラッタッターだった。
なあああああああ!
「広いし、綺麗!装飾すご〜〜〜〜」
後ろでものすごくはしゃいでいる気配がする。
なんで、大丈夫なの……。
「流石に露天じゃないね。窓もないや。まあ、空飛ぶ人も多いから、露天は無理かぁ」
あああああああああああ。
魔法!?
魔法で爆破させる!?
杖がない……から……っ、大変な事になっちゃうけど……っ!
後ろからざばざばとお湯の音がする。
何かわぁわぁとプルクラッタッターが騒いでいるみたいだ。
だ、だめだめ。爆破はだめ。
「お風呂!でかい!泳げそうどころじゃない。泳げる」
あの子……めちゃくちゃうるさいわ。
後ろでは、プルクラッタッターがお湯に入ったところのようだった。
「明日にはもうここを発たないといけないのちょっともったいないね」
ついでに、うしろから「ふにゅ〜」と声が聞こえた。
お湯に浸かって一息ついたところのようだった。
ザバッ!
「…………!!」
後ろでプルクラッタッターが立ち上がった気配がする。
「じゃ、私先出るね。あんまり長風呂は……、……パピラター?」
ずっとシャワーの前に座りっぱなしのパピラターに気づいたのか、プルクラッタッターが様子を窺う気配がした。
「ほ、ほどほどにしておくわ!!」
「うん、じゃあ部屋でね〜」
ガラッ。
と扉が開いて、プルクラッタッターの気配が扉の向こうへ消えた。
「………………」
泡立てすぎた泡が、パピラターの周りに溢れていた。
「もぉ〜〜〜〜〜〜!!」
突然の風呂回!




