54 ほっと一息(1)
小さな(といっても、犬にしては大きい)その犬を冒険者ギルドに運ぶのは、苦ではなかった。
ギルドのお色気お姉さんは、顔色ひとつ変えず、その犬を引き取ってくれた。
「では、様子を見て、明日連絡を入れさせていただきますね。その時に、今後の見込みをお伝えしたいと思います」
「よろしくお願いします」
なんて言っていたのだけれど、翌日には、アジトの場所はあっけなくわかった。
なんでも、尋問のプロが請け負ってくれたということだったけれど。
プルクラッタッターの頭にはハテナが浮かぶ。
犬語がわかる尋問官が居たってこと?
それにしても……、お色気お姉さんの鋭い視線。
まさか、その尋問のプロって……このお姉さんのことじゃないよね…………?
ちょっとビクビクしながらも、二人と一匹は犬のアジトへ乗り込んだ。
そこには捜索に出されていた4匹ともが居て、みんな元気に家族の元へ戻って行った。
「ヒーローだね」
「だね」
ということで、あっけなくギルドの仕事は終わった。
思っていたよりも多めの報酬が、二人と一匹の手に入った。
「このくらいだと、まあ5日分のご飯にはなるかな」
賑やかな町を歩きながら、パピラターがウィンドウを覗いていく。
パン屋、ケーキ屋……。ラーメンの屋台のようなものもある。
「とはいえ」
パピラターが町を眺めながら言う。
「旅の足しにするには少ないし、プルクラッタッターは、何か欲しいものある?」
そう言われ、プルクラッタッターはハッとした。
「じゃあ、欲しいものあるんだけど」
そう言って、2時間後。
プルクラッタッターは、革製のウエストポーチを手に入れていた。
背中の腰の部分に、巻いておいた。
二人とも満足げだ。
それは、ウエストポーチにしては大きいけれど、お出かけ用の域を出ないほどの大きさだった。
けれど、見た目以上にずっと物が入る。
着替えも、非常食も。
魔道具の店は基本的に人目につかない場所にあるため、店を探すのに時間がかかってしまったけど。
その甲斐あってか、小さくても沢山入る鞄が手に入ったというわけだ。
今回の報酬は全て使い切ってしまったけど、この旅もうまくいくはずだ。
「パピラターはその鞄でいいの?」
パピラターは相変わらず、肩から大きな鞄をぶら下げていた。
「…………」
パピラターは、自分の鞄を眺める。
「いいの!気に入ってるし!」
まあ、パピラターは確かに気に入ってはいた。
とはいえ、実際のところ、魔道具や昔の品物を整理したくないのが理由だ。
精密なもの。見たくないもの。
「あなたのよりも数倍は入るんだから」
言いながら、ぽんぽんと自分の鞄を叩いた。
あの時は一人だったけれど、今は二人と一匹だ。
それがなんだかくすぐったくて、パピラターは少しだけツンとした顔をした。
実際には、犬語がわかる人は居なくて、縄で繋げてアジトまで案内させたわけです。




