53 今日は探偵になってみる(5)
ガチン!!
プルクラッタッターがステッキで受け止めた攻撃は、牙によるものだった。
ステッキに噛みついて、離さない。
「こんのぉ……」
「代理人としてパピラターが命じる。世界の遍く理。我が声を聞き入れ、突風をこの手に」
犬とプルクラッタッターが力比べをしている間に、パピラターが詠唱を終える。
ぐおっ!と、犬の口のすぐ前に、小さな風が巻き起こった。
犬は口を突風で押され、ステッキから無理やり外される。
ついでに、衝撃で後ろへ飛ばされたプルクラッタッターが尻餅をついた。
あ、このもこもこスカート、クッション性が高い……。
プルクラッタッターが尻餅をついている間に、パピラターが再度、突風で犬を吹き飛ばす。
それを見て、プルクラッタッターが慌てて立ち上がった。
大変!私も戦わないと!
「たあああああ!」
プルクラッタッターが、ステッキを構えて飛び掛かって行った。
残念ながら、犬が避け、またプルクラッタッターと犬が対峙する。
パピラターの突風で、犬が上へ勢いよく飛ばされた。
プルクラッタッターが突風に耐え、ステッキを構えた。
「ナイト・オブ・ブライアー!」
プルクラッタッターが叫ぶと、ステッキに光が集約された。
それと同時に、必殺技のBGMが流れる。
トゥッタートゥッタートゥッタートゥッター♪タララララララララ♪
犬が、
「ワフゥ!?」
と、驚いた声を出した。
BGMが止まり、ステッキに十分な光が集まったことを確認した。
「アロー!」
すると、ステッキに集まった光が輝き、細い矢のような形になって犬の方めがけて飛んでいく。
音のないその矢は、犬にあたると、犬は眠るように目を閉じ、ふわっと屋根の上に倒れた。
犬はすっかり寝息を立てていた。
「…………倒し……た」
「うん」
二人は、犬の顔を覗き込んだ。
やはり、どこからどう見ても犬だった。
「魔物、なの?」
「そう。こういうのも、いる」
「こいつをギルドに連れて行けば、一件落着なわけだね」
「うん。現行犯だし、このままギルドへ連れて行くのが手っ取り早いわ。依頼は居なくなった猫の捜索だから、アジトまで追って行く方法もあったし、会話ができれば自分達でアジトを見つける方法もあったけど……」
まさか、会話ができない相手だとは。
見つけた途端に手を出したのは失敗だったかな。
なんて、パピラターは思う。
けれど、こういう誘拐は、すぐに売られてしまう事もある。今までの猫達が、アジトに居るかもわからない。
うっかり追うことに決めて、この猫をアジトにまで入らせて、今目の前にいるこの猫に何かあったなら、あたしは自分を許せただろうか。
カチャン、とパピラターは檻を開けてやる。
顔と首輪をチェックして、そのまま離してやった。
「アジトは見つかるんだよね?」
「うん。依頼の請負が変わることはよくあることだと聞くわ。だから、危険なことになる前に、それが得意な人に依頼を代わってもらえる。報酬も手に入る。下手に後をつけるよりも可能性は高いかもしれない。だから、子供やお年寄りの冒険者も多いの」
「ネコちゃんたちがおうちに帰るところまで手伝えたらいいね」
パピラターが顔を上げると、プルクラッタッターが笑っていた。
失敗なんてあり得ない、なんていう顔で。
この顔は……、なんだか心強い。
あたしまで、なんでも出来るような気がしてくる、そんな顔だ。
「へへっ」と笑って、プルクラッタッターの顔を見た。
この笑顔があれば、あたしは立ち上がれる気がする。
一件落着!
犬、なかなかいいキャラなんじゃないかと思うんですけどね。残念ながら言葉が理解できないんですよね。




