41 バイバイなんて言いたくなくて(1)
「お〜〜〜〜!」
ロケンローの歓声が、街道に響く。
二人と一匹は、街道のど真ん中に居た。
次の町まであと半分。
馬車一台分の食料しかない街で、町の人々は、二人と一匹にも食料を分けてくれようとした。
お礼とやらで。
けれど、そんなものを貰うわけにもいかないので、パピラターの鞄に眠っていたビスケットを齧りながら、早々に町を出てきたのだ。
「ちょ、ちょっと飛べた〜!」
確かに、プルクラッタッターは、ステッキの上に座り、10メートルほど飛ぶことが出来た。
「やったわ!プルクラッタッター!」
パピラターとプルクラッタッターが、パチン、とハイタッチをした。
次の街は、トレルニの町だった。
この小さな旅は、トレルニの町までという約束だ。
パピラターにとっても、プルクラッタッターにとっても、それは嬉しくない事だ。
どちらも、もうすっかり、離れたくないと思っていた。
「けど」とパピラターは思う。
この子をこれ以上巻き込むことはできない。
魔族だって、しばらくはプルクラッタッターを狙うかもしれないが、別れた所を見せれば、追われることもなくなるだろう。
連れて行くよりずっとマシだ。
一緒にいたいと思えば思うほど、一緒になんか居られなくなる。
「それなら」とプルクラッタッターは思う。
一緒に行こうと言えば、パピラターは何て言うだろう。
きっと連れて行けないなんて言うだろう。
それでも、伝えたい事は、伝えないと。
手遅れになる前に。
一緒に行くことがうまくいかなければ、それからまた考えればいい。
追いかけるなり、遠くから手助けするなり。
それぞれそんな事を思いながら、だだっ広い草原のど真ん中に据えられている、木製のテーブルセットに腰を落ち着けた。
この街道には、屋根のあるガゼボもあるけれど、その途中にもテーブルと椅子だけが据えられている場所が、草原の中に点在していた。
テーブルの下には、ささやかながら備品も収められている。
夜用のランプや、小さなコンロなど。
食べるものは、残念ながらパピラターの持つビスケットだけれど。
カップに入った水を飲みながら、ロケンローがモゴモゴとビスケットを食べる。
「僕、このビスケット結構好きだよ」
それを聞いたパピラターが、「ふふっ」と笑う。
「あたしもだよ」
プルクラッタッターが空を飛べるようになればなるほど、パピラターは不安になった。
別れの時が近いのを、考えないわけにはいかなかった。
この子はあたしが居なくてもちゃんと生きていけるのかどうか、なんて考えてしまう。
ちゃんと冒険者をして、お金を稼いで、知り合いを探し出して…………。
そこには、どうしてあたしが居ないんだろう。
どうして、あたしはそこに居たらいけないんだろう。
一緒に世界を巡りながら、人探しなんてしたら、きっと楽しいだろうな。
出てきたはずの場所に、今でもまだ縛られているような気分だ。
今だけは、この緩やかな時間を楽しもうと、パピラターは、精一杯笑った。
まあ、プルクラッタッターが魔王を倒せるくらい強くても、パピラターは一緒に行こうとはしないでしょうけどね。




