39 魔族
ガタガタと、馬車が走る。
二人と一匹は、御者台に座り、町へと向かっていた。
馬車は、なんてことない馬車で、2頭の馬が引いていた。
プルクラッタッターはこの世界で普通の動物を見るのは初めてだ。
馬が本当に見覚えのある馬だったので、じっと動くのを眺めていた。
とはいえ、プルクラッタッターは、元いた世界でもあまり馬を見たことがなかったのだけれど。
プルクラッタッターは、生まれた時からなかなかの都会育ちなのだ。
ぼんやりしていると、パピラターが話し出した。
「魔族っていうのはね、人間とは違うの。元々、この世界に存在したらしい“亜人”の子孫だと言われているわ」
「亜人?」
「そう、亜人」
パピラターが言うには、この世界には、“亜人”と呼ばれる生き物がいたらしい。
それは、人間のように二足歩行で歩く。
けれどその姿は人間とは違うもの。
毛むくじゃらだったり、ツノが生えていたり、翼が生えていたりした、らしい。
そして、力は強く、魔力量が人間よりも多い。
人間から見れば、脅威的だったようだ。
けれどそれもすでに、本の中のお話だ。
「確かに、魔族は大柄な人が多いし、魔力が多い人が多い」
「それが……亜人が居た証拠?」
「そう。魔物も、亜人の子孫だと言われているわ」
「あの、動物も?」
「うん。魔族と違って、より動物化した結果なんですって」
「動物になった……亜人……」
「今では、魔族も、人間の血が混じって、殆ど人間」
パピラターが、困ったような顔で笑った。
「え…………」
プルクラッタッターがパピラターの顔を見る。
「相手は……殆ど人間……?」
「そう。あたしは、人間と戦ってる。けど、食料を盗っていったり、それだけじゃ済まない時もある。殺される人だっている。あたしは、そんな事をする人達を、懲らしめないといけないの」
「そんな……」
パピラターは、そんなものと一人で戦っているんだ。
何か手伝えることはないのかと、プルクラッタッターは思う。
もし、万が一、魔王討伐に付いて行ったとしても、こんな戦闘初心者では、きっと足を引っ張ってしまう。
その上、私は部外者だ。
この世界のはみ出し者。
けど。
パピラターの隣に今居るのが、このプルクラッタッターだ。
プルクラッタッターの、数十センチ右隣。
透き通った菫色の髪が、ふわふわと揺れている。
手を伸ばせば、届く所に。
だって、魔王を倒す旅に、仲間が居ないのは不自然だ。
もしかしてもしかしたらだけど……、私を拾った事が、パピラターにとっての仲間追加イベントだったりするんじゃないだろうか。
考えているうちに、馬車は町へと辿り着いた。
広場で、町の人達に取り返した食料を分けていく。
ひどく感謝される中で、パピラターが、
「これしか取り返せなくて、ごめんなさい」
と、誰にも聞こえないように囁いたのが聞こえた。
パピラターは、人間に被害が出るのは、自分の責任もあるんじゃないかと思っているのです。
そんなことはないんだけどね!




