38 今、必殺の!(2)
パピラターとプルクラッタッターの二人は、顔を見合わせた。
「あ……あわわわわわ」
「し、死んじゃった……?」
「え、ええ!?」
二人して、そー……っと魔族の顔を覗き込む。
「……寝てるだけだよ?」
後ろから声をかけられ、二人は抱き合って飛び上がった。
「きゃあああああ!!」
後ろにいたのがロケンローであることを確認し、先に我に返ったのはパピラターの方だった。
「寝てる?」
「そ。プルクラッタッターの必殺技。プルクラッタッターに起こされることがなければ、100日間眠りっぱなしなんだ」
「え……」
パピラターは言葉を失う。
100日?
聞き間違いじゃなければ、ロケンローは100日と言ったのだろうか。
パピラターも時間を止め、眠らせる魔法は使える。
けれど、それも、意識することをやめて魔力の供給が尽きれば、起きてしまう。
せいぜい数時間が限度だ。
「そんな強力な魔法……なの……?」
「必殺技だからね!」
不器用そうなドラゴンが、器用にも左目を瞑った。ウィンクだ。
「必殺技……」
プルクラッタッターがステッキを眺める。
「そんな軽い感じでいいのか」と、パピラターは思う。
けれど、これなら……。
プルクラッタッターが居るあいだは……、人を殺さなくても済むんだ……。
今までの道のりを思い、杖を持つ手に力を込めた。
静かな時が流れる。
そよぐ風の中に、魔族三人の寝息が聞こえる。
「ねえ、パピラター」
プルクラッタッターに呼ばれ、ふっと顔を上げた。
「……?」
パピラターの顔が辛そうに見えたので、プルクラッタッターは、一瞬、黙り込んだ。
「どうしたの?」
しっかりした声で返事をすると、思い出したようにプルクラッタッターが言葉を続けた。
「ねえ……この人達は……魔族……なの?」
プルクラッタッターは、魔族達に視線を落とした。
プルクラッタッターにとって、魔族というのは、悪魔のようなイメージだ。
ツノがあったり、翼があったりするものなのだと思っていた。
けれど、“魔族”と呼ばれたその者達は、どう見ても人間だった。
質素な服装。
質素な武器。
決して贅沢しているとは言い難い。
「魔族だよ」
パピラターが言い切る。
「けど……」
さっきだって、パピラターが聞かなければならないほど、人間と違いがわからなかった。
パピラターだって、見ただけでは、違いはわからないのだ。
「言いたいことは、わかる」
パピラターは、何かを静かに考えているようだった。
「先に、馬車を見よう」
「うん……」
パピラターは、馬車の後ろの扉を開け、中を確認した。
中は、木箱でいっぱいだ。
木箱は鍵などが付いているわけではないようで、簡単に蓋は開いた。
「どれも食料だわ」
「……本当だ」
プルクラッタッターは馬車の行く先を見た。
やはり、まだ馬車の痕跡が続いている。
追いかけてもいいだろうけれど、ここに大切な食料を放置しておくわけにもいかないだろう。
「どうする?」
「……やめておきましょう。……ここにこれだけの食料を放置して、盗賊に取られでもしたら目も当てられないわ」
「うん」
二人は先を見て、寝ている魔族達を見て、そして、大きな荷馬車を見上げた。
魔族戦もあっさりと!
戦闘が多そうな物語ですが、今回のお話も戦闘はあっさりでいきたいと思います。




