35 魔族を追いかけて(1)
「パピラター、もしかして」
早足で西へ向かうパピラターの後を追うプルクラッタッターが、パピラターに声をかけた。
「そうよ。もちろん」
パピラターは地図を取り出し、周辺の探索を始めた。
「あのまんまにしておけない。今から追いかければ、追いつくかもしれないもの」
そんな大量の食料を持って、あの山脈をそんなに簡単に越えられるとは思えない。
魔王の居る魔王城は、北の山脈の向こう側にある。
緑の無い岩だらけの山。
切り立った崖。
人間は寄り付かず、その山を越えることもないため、道らしい道もない。
いくら魔族といえども。
西側は深い森だ。
この町の街道は、北と南に繋がっている。
街道を避けて行ったのだろう。
町から空飛ぶ魔物で飛んで行ったのではないなら、まだ希望はある。
森の入り口まで行くと、タイヤ痕があるのを、パピラターは発見した。
周りには、他に誰かが通った気配はない。
高い場所では、木が折れていて、何か大きなものが通った後だと窺えた。
「この痕を辿ってみるわ」
「うん……」
二人と一匹は、暗い森へと入って行く。
言葉もなく歩いた。
何か発してしまうと、誰かに見つかってしまうんじゃないか、そんな気がした。
タイヤ痕はずっと続いていて迷子になることはないけれど、暗く、足下は滑りやすく、あまり歩きやすいと言える道ではない。
どうしても、恐る恐るゆっくりと進むしかなくなる。
……このままじゃ、追いつけなくなる。
けど、プルクラッタッターをこの場所で飛ばすのは少し怖い。
「プルクラッタッター、あたしに掴まれる?飛んで追いかけるよ」
「…………うん」
一瞬躊躇したプルクラッタッターだったけれど、決意の表情で、パピラターを見た。
「じゃあ、二人とも、あたしに掴まって。木に引っかからないように、出来るだけ小さく飛んでいくわ」
「う、うん」
プルクラッタッターは、ロケンローがプルクラッタッターの腕に掴まるのを確認すると、パピラターの背中の方から手を伸ばした。
「じゃあ、失礼します」
きゅっと、プルクラッタッターが、パピラターの後ろからお腹の辺りに抱きつく。
「ひゃああああああ」
パピラターが、小さく悲鳴を上げる。
「だ、大丈夫?」
「う…………うん…………」
背中……が…………くすぐったい…………。
なんか…………これ…………。
プルクラッタッターの手の存在感がすごい。
「ぅ………………」
けど、そんな事は言ってられない。
パピラターは、何かを我慢するように、杖を持つ手に力を込めた。
「代理人としてパピラターが命じる。世界の遍く理。我が声を聞き入れ、我らを空へ招き入れよ」
ぎゅーん!
パピラターの精神面が出てしまったのか、妙にスピードが出てしまう。
パピラターが杖に掴まるようにして飛ばして行く。
プルクラッタッターはそんなパピラターに必死でしがみつく。
ぅあああああああああああああああああああ!!!!!!
それぞれが違う意味で、心の中で悲鳴を上げた。
空を飛ぶ魔物の中でも、大きな鳥の形をしたものは、山脈をひとっ飛びできるそうです。




