34 二つ目の町
二人と一匹は、夕方まで歩き通しで、疲れない靴を履いているプルクラッタッターも、流石に足を動かすのに疲れてきていた。
夕方らしく、少し雲が出てきているけれど、相変わらず天気はいい。
たどり着いた場所は、今までいた町よりずっと小さく、それでいて静かだ。
「静かだね……」
「おかしいわね」
小さい町ではあるけれど、家々は建ち並び、人が住んでいる。
けれど、人の姿が見えない。
いくら夕方だとはいえ、家々の扉や窓は閉め切り、まるで一人も残らずに逃げてしまった町のようだった。
けれど、よくよく見れば、所々煙突から煙が上がっている家がある。
「人は居るみたい。……嫌な予感がするわ」
しばらく二人と一匹は歩き回り、庭に出てきていたおばあさんを見つけ、声をかけた。
「すみません」
普通に声をかけただけなのに、おばあさんはビクッとすると、ゆっくりと振り返った。
恐る恐る。
それは、プルクラッタッターに、ホラー映画を思い起こさせた。
それほど、何か怖いものを見るときの顔だった。
「やっぱり、これは何かある」と、パピラターが確信を得るほどに。
おばあさんは、そこに立っていたのが、いかにも無害そうな少女二人と小さなドラゴンだったので、あからさまにホッとした。
「あら……何かしら」
それでも、声を落とし、何かを警戒しているようだ。
「食事ができる場所と、宿泊所を探しているのですが」
パピラターがおばあさんに合わせ、小さな声でにこやかに言う。
「ええ……ああ……ええと」
おばあさんは顔を曇らせて言った。
「魔族が来たの」
「え…………」
二人が押し黙る。
「だからね、今は食堂、やってないのよ。……食べるものは全部、取られてしまって」
やっぱり、そういうこと、よね。
“魔族が来た”、それはつまり、町の食料が奪われたことを意味する。
この国では、頻繁にある事だった。
魔王城への距離に関わらず、一つの町が襲われる。
そして、備蓄という備蓄も、肉も野菜も全て、根こそぎ奪って行ってしまう。
食事も宿泊所も、食べるものがないということだ。
それどころか、この町の人々の食事すら、ないということ。
「そんな…………」
「それは……、いつのことですか?」
「昨日のことよ」
「助けは?」
「近隣の町に、すぐに助けを求めたわ。けど、直ぐに食料が手に入るわけじゃないから。みんな気落ちしてしまって……。心配だわ」
おばあさんは、悲しそうな顔になる。
この町に住む人だって、全員が元気な人間というわけではないだろう。
病人、子供、お年寄り……、食事がないと一体どうなることか……。
パピラターが、意を決した顔で言う。
「それは……いつのことですか」
「昨日の事よ」
「空を飛んで?」
「いいえ、昨日は……盗賊みたいな人達が、大勢で押しかけて」
「どっちに、行きましたか」
「西の森の方に。……近付いたらダメよ。すぐに助けは来るから、心配しないで」
魔王の領地と隣り合ったこの国は、魔族の襲撃が頻繁にあります。
襲撃があれば、近隣の町はすぐ助けられるように、町は何処も備蓄多めが基本です。




