20 まずは人探し(1)
大通りにある宿の一室で、二人はテーブルに向かい合って座った。
すでに空は明るい朝日に染まっていくところだった。
ばさっとパピラターがフードを取る。
菫色の透き通った髪が、ゆるやかなカーブを描くのが、プルクラッタッターの目に映った。
「…………」
息を呑む。
そのぼんやりとした顔に、パピラターが怪訝な顔をした。
「何?」
「ううん、なんでも…………」
その宿は元々パピラターが取っていた宿だったけれど、二人になったので部屋を取り直した。
部屋は二人部屋で、パピラターによれば一人部屋の倍以上あるらしい。
ベッドは2つ。
テーブルに、水差しと大きなカップが2つ。
大きなワードローブが1つ。
大きな宿だけあって、部屋も小綺麗だ。
「人を、探してるのよね」
「そう。でも、どこに居るのかもわからない」
「一つ、魔道具を買ったわ」
そう言って、パピラターがテーブルの上に置いたのは、1枚の皮のような紙だった。
「これは?」
「これは、想像したものを描ける紙よ」
「私、お金が……」
プルクラッタッターは慌てたけれど、パピラターはその事をちゃんと知っている。
「そこそこの手持ちはあるから、当面の旅費は私が出すわ」
「…………ありがとう。このご恩はかならず……!」
プルクラッタッターがパピラターの手を握る。
パピラターは、照れているのか、そっぽを向いて少し頬を赤らめた。
かわいいじゃないの〜〜〜〜。
「1枚しかないから、しっかりイメージしてね」
「という事は……描き直しはできない?」
「そういうこと〜」
「えっと……、じゃあ思い出す所からやるね」
「…………そうね」
パピラターは、「そんなところから付き合わされるのか……」と思わなくもなかったけれど、ちゃんとやってくれた方が、いいには違いないのだ。
「えっと、名前はケイタロウ。三ノ宮圭太郎。33歳」
プルクラッタッターは、う〜〜〜〜ん、と頭を抱えながら、その男を思い出そうとする。
パピラターは、そんなプルクラッタッターを、頬杖をしたまま眺めた。
「髪の色は茶色、で。えっと、声がでかい」
「うん、まあ、確かにそういう特徴は盛り込んでおいた方がいいわね」
「あの日は、夜で、二人で酒場?に居たの」
「酒場?」
「そう、お酒が飲める所」
「……あなたも飲んだの?」
「うん。ケイタロウにけっこう飲まされて……」
「え…………」
プルクラッタッターは見ていなかったけれど、パピラターはすごく嫌そうな顔をした。
だって、パピラターは思ったのだ。
こんなどう見ても10代半ばほどの女の子に、お酒なんて飲ませる???
そんないい大人が???
この国でもやはり、お酒は20歳になってから!なのだ。
「なんて鬼畜……」
パピラターは思わず呟いたけれど、プルクラッタッターの耳には届かなかったようだ。
「それで……」
それで。
プルクラッタッターは、あの日を思い出す。
デロデロに酔っ払った足で、ケイタロウと二人、街中を歩いた。
そこから、思い出せるのは、ケイタロウのなんだか辛そうな顔。
最後に、何か話した事。
酔っ払っていたからか、細かい事を何も思い出せない。
やっぱり、ケイタロウとは話す必要がある。
「う〜〜〜〜〜ん」
プルクラッタッターは、それ以上思い出す事もなく、頭を抱える。
パピラターは、いかにもつまらなそうに、ほっぺたを歪ませている。
「紙に向かって念じれば、浮き上がってくるわ」
そう言われ、プルクラッタッターは紙を両手に持ち、祈るように念じた。
ケイタロウ。
ケイタロウを描いて。
すると、サーっとペンが走る音を立てて、黒い線が浮かび上がっていく。
「すごい……」
こうしてうだうだしてる日常がかわいいですよね〜。
 




