19 ひとまず二人で
「ごめんなさい」
パピラターが、居心地が悪そうにプルクラッタッターに言う。
「あたしが軽く考えすぎてた。プルクラッタッターが狙われてしまうなんて」
パピラターは、ひとりぼっちになってから、ずっと一人で旅をしてきた。
店での取引や情報収集以外での会話は、この旅の中で、初めてと言ってもよかった。
パピラターが歩む道では、パピラターが狙われるのは当たり前の事だった。
それにしたって、少し一緒に歩いただけの人間を、捕まえるなんて。
ここから、どうしたらいいのかわからなくなる。
この旅には連れていけない。
危険に飛び込んでいくだけの旅路。
けど、こんな魔法が下手な子、置いていったらどうなってしまうんだろう。
あの魔王のことだから、プルクラッタッターを逆さ吊りにしてあたしを脅しにかかるくらいのことはするだろう。
「大丈夫だよ」
プルクラッタッターが、パピラターの手を握り返した。
「パピラターは、私の事、助けに来てくれたでしょ」
「…………」
握り返された手が、温かい。
少なくとも、こんな子を今すぐに見放すことなんてできない。
「あたしはね、ずっと一つの所にはいられないの」
パピラターが、静かに言う。
とても、大切なことのように。
「けど、あなたの事は心配だから、少しだけ一緒に居てもいいと思う」
その言葉で、次第にプルクラッタッターの顔が明るくなった。
「あなた、魔法がダメダメ過ぎるから、魔法の扱い方を少しだけ見てあげる。それに、人探しの手伝いも少し」
「いいの?ありがとう。それなら、安心」
「もし、付いてくるなら……、北にあるトレルニの町までなら、一緒に居てもいいわ」
パピラターは立ち上がり、プルクラッタッターを引き上げた。
「うん。お願いするね」
しゅるん、とリボンを解くような音がし、気付くと、プルクラッタッターは元の革の服に戻っていた。
いつの間にか合流したロケンローも連れ、二人と一匹は町へと戻る。
「ああ……、よかった……!」
雑貨屋へ戻ると、店主がプルクラッタッターを優しく迎え入れた。
心配そうな顔。
思いがけない事に、プルクラッタッターが驚く。
「す、すみません。急に居なくなって……」
「いいの。あの時急に外が騒がしくなって……、見たら居なくなってるし。本当に心配したんだから」
「ありがとう……ございます」
知らない場所、知らない人ばかりで、ひとりぼっちだと思っていたけれど。
こんな風に、心配してくれる人もいるんだ。
「申し訳ないんですけど、もうすぐにここを出ないといけなくなって。服を返しに」
そうなのだ。
プルクラッタッターは、ここではすでに狙われる理由があった。
雑貨屋に居座ってしまうと、迷惑をかけてしまうかもしれない。
そう言うと、店主はプルクラッタッターを笑い飛ばした。
「服ぐらい持っていって。仕事はしてもらったし、お給料ってことで」
それは、プルクラッタッターにとって、本当にありがたい申し出だった。
今からあの2階の部屋で床の上に畳んで置いてある服に着替えなくてはいけないかと思っていた。
それも、なぜ床に置いたかというと、椅子の上でさえ、椅子が汚れてしまうかと思ったからだ。
それくらい、プルクラッタッターのミモレ丈のスカートは汚れていた。
「ありがとうございます」
ここには、温かい人がたくさんいるのだ。
それから、二人は店で魔道具を物色し、挨拶をしてから店を出た。
ということで、やっとパーティーが2人と1匹になりました!
 




