18 初めての戦闘(2)
ボン!!!!!
とすごい音がした。
ガラガラと壁が崩れ、二人がいた部屋から夜空が見えた。
「じゃあ、逃げるわよ」
「う、うん」
パピラターが、プルクラッタッターの手を掴んだ。
「代理人として……」
パピラターが詠唱を始めた瞬間、部屋の外からドヤドヤと大勢の男達が入ってくる。
「わああああ」
驚いたプルクラッタッターが、勢いよくブン、とステッキを振った。
すると、プルクラッタッターの足下に、紋章が浮かび上がる。
「…………!!」
まるで、踏み台のようだ。
勢いよく、ジャンプする。
と、ステッキに引っ張られるように、二人が壁の外へ飛び上がった。
「…………!?」
二人は、空へと飛び上がる。
ステッキにぶら下がるプルクラッタッターにぶら下がるパピラターという状況だ。
足の下に、小さな要塞のようなものが見えた。
「よかった、町からは少し離れた場所みたいね」
同じ穴からロケンローがふよふよと飛び出してきたのを確認し、パピラターは呪文を唱え始める。
「代理人としてパピラターが命じる。世界の遍く理。我が声を聞き入れ、時の流れを阻め」
「…………」
プルクラッタッターが見た感じ、何も起こっていないように見えた。
「今のは?」
「大きな盗賊団のようだったから、あの建物ごと時間を止めて眠りにつかせたわ」
「……殺すわけじゃないんだね」
プルクラッタッターは、傷つくでも傷つけるでもなかったことに安堵した。
誰も、殺さずに済んだ。
これで安心していいのかわからない。
放っておいたら、また捕まって、今度はこちらが殺されてしまうかもしれない。
けれど、人を殺めたことのないプルクラッタッターにとって。
人間の死どころか、動物の死すらも遠い世界のように思っていたプルクラッタッターにとって。
やはり、目の前に死がないことには、安心してしまうのだった。
「雇われ盗賊団までわざわざ壊滅させる理由はないわ。無益な殺生はしたくないんだ」
「そうなんだ」
やっぱり、この感覚のままじゃいけない。
パピラターは行ってしまうんだから。
一人のなった時、一人で戦えないといけないんだ。
その瞬間、ガクンとステッキが落ちた。
「ひゃああああ」
ぐん、とステッキがまた浮き、なんとか持ち堪える。
「こ、これどうやって動かすの……!?」
「集中して!イメージ!」
「イメージ……」
ゆっくり、飛んで。
プルクラッタッターは、近くの林を目的地に定めた。
あの場所まで、飛んで。
すると、ふーっと、ステッキが飛んでいく。
すごい…………。
考えるだけで、空が飛べてしまうなんて。
正直、遊園地のアトラクションより怖いけど。
足がぶらぶらするだけならまだしも、片手はパピラターと繋がっているので、片手でしか自分を支えていない。
そんな状態でビルの3階くらいの高さの場所をぶらぶらと飛んでいるのだ。
遊園地苦手じゃなくてよかった…………。
ふわふわと地面へ降りていく。
パピラターの足が着くか着かないかのところで、ステッキの力が抜けて、二人して地面にどさりと落ちた。
「いたたたたた」
痛がりながら目を上げると、パピラターと目が合った。
「大丈夫?」
プルクラッタッターの手を掴んでいるパピラターの手に、力が入るのを感じた。
パピラターの眉毛が、少しハの字に歪んだ。
どうやら、心配をさせてしまったみたいだ。
プルクラッタッターが、ふっと微笑む。
「大丈夫、だよ」
さて、初めての戦闘は、逃げることでひとまず一件落着したのでした。




