138 番外編・お呼ばれされました(前編)
その日はいつものように、ケイタロウと魔王が“騒乱のニュクス”に乗って遊びに来た。
しかし、いつものようにズカズカ入ってくることはなかった。
プルクラッタッターが扉を開けると、そこでなんだかモジモジしている魔王とケイタロウの姿があった。
「どうしたの?二人とも」
声をかけると、少し戸惑った魔王が、
「二人に、話があるんだ」
と切り出した。
不思議に思いながらも、魔法の練習と称して水のボールを浮かばせて遊んでいたパピラターを呼ぶ。
声をかけた瞬間、水のボールはテーブルの上でその光景を眺めていたロケンローの上に、ばちゃん!と音を立てて割れた。
すぐに、パピラターとプルクラッタッターの二人は、家の前で、魔王とケイタロウの前に立った。
魔王の手には、封筒がある。
力の入れすぎで、真っ白な封筒はくしゃっと折り目が入ってしまっている。
手紙のようなその封筒を握り、魔王がパピラターとプルクラッタッターの前に立った。
パピラターは、プルクラッタッターの陰に隠れるように、少し下がったところで押し黙っている。
「二人とも」
魔王の声は、裏返っていた。
こんなにも、魔王が緊張するなんて。
それに、プルクラッタッターから見た魔王は、何処かしら恥ずかしがっているようにも見えた。
ケイタロウがそんな魔王を見守るように立っている。
二人の表情からして、悪い話ではないようだけど。
手紙ってことは何かのお誘い?
それで……何か、いい事……。
え……?
「我……、あ、私とケイオスなんだが」
え?
え?
「け……」
け!?
「け……っこん……」
う……うわぁ……うわぁ……!
プルクラッタッターの目が輝いた。
すごい速さで魔王とケイタロウの顔を交互に見る。
ケイタロウは嬉しそうな困り顔だ。
「結婚……することに……なったんだ」
「ふおおおおおお」
プルクラッタッターが興奮して声を上げた。
顔が紅潮する。
「お、おめでとう……!」
魔王が差し出して来たのは、結婚式の招待状だ。
「二人に……来て欲しくて」
「そっかぁ……。やったじゃん、お兄ちゃん!念願の!」
プルクラッタッターは、そこで、「絶対行くね」なんて言う事が出来なかった。
パピラターの事を思うと、どうしても複雑な気分になった。
自分が殺そうとした……、大切な人を殺した……、自分を殺そうとしてきた……、そんな人の幸せな姿を見る事は、パピラターには残酷なんじゃないかって、ついそんなことを思ってしまったから。
ケイタロウと魔王は、その招待状を渡すと、今日は早々に帰ってしまった。
パピラターは、それを受け取ってから、何も言わないまま、ぼんやりとまた同じ席に座り、お茶を飲んだ。
それからも、パピラターは黙りこくっていた。
夜遅くなってから。
プルクラッタッターは、窓辺で外を眺めるパピラターを見つけた。
「どうしたの?こんな所で」
家の端っこの窓から、わさわさとした森しか見えない風景を眺めていた。
「プルクラッタッター」
パピラターが、「へへ」と力なく笑う。
「眠れなくて」
その笑顔が、なんだか苦しい。
黒い木々が柔らかく騒めいた。
また、外を眺めるパピラターに声をかけた。
「ねえ、パピラター……。もし、結婚式、行けないんだったら、行かなくてもいいよ?」
「…………」
パピラターが手を掛けていた窓ガラスが、カタンと揺れた。
水をうまく操れたら便利なんじゃないかと、パピラターは練習中なのでした。




