131 だから、物語はここで終わるのです(2)
空高く昇っていく。
城はだんだんと小さく見える。
全体を眺めれば、ルールイエの湖一つくらいは入ってしまいそうな大きな城だと分かる。
「…………」
パピラターが泣きそうな顔でそれを見た。
嫌でも目に入ってしまう。
北側にあるあの窓のない塔は、まだその場所に鎮座していた。
すぐそばに温室。
その近くの城の裏手に、大きな扉がある。
そこは、パピラターが図書館に行くためにこっそり使っていた扉だ。
思い出してしまう。
ポフと初めて会った時のことを。
数年ぶりに会ったけれど、魔王はあの時と同じ雰囲気を纏っていた。
「ねえ、“安寧のエレボス”」
パピラターが、ポンポン、と軽く叩きながら、大きな鳥に声をかけた。
「あの城を回って」
ふーっと大きな鳥が軌道を変える。
パピラターとプルクラッタッター、二人に軽く重力がかかった。
魔物だからか、そういう種族なのか、“安寧のエレボス”は賢い鳥だ。
パピラターの操る宝石の手綱に合わせて、ゆったりと城の周りを回る。
ゆっくりと下降しながら、
「呼んで」
と、パピラターは“安寧のエレボス”にお願いした。
「ケーォッ」
そのお願いが通じたのか、甲高い声が、空気の中に広がった。
城へ。空へ。山へ。
声がこだまする。
眼下で、城から、人が慌てて出てくるのが見えた。
ケイタロウと、ケイタロウに引っ張られ泣きそうな顔で出てきた魔王だった。
魔王は空の上の大きな鳥と、その鳥が巻くキラキラとした大量の宝石と、その上に乗る二人と一匹を認めると、目を細めて見上げた。
「なあ……、パピラターは笑ってるか?」
「ああ、笑ってるよ」
ケイタロウが、自分のファー付き黒マントで魔王の顔を拭った。
「だからさ、お前もそんなに泣くなよ」
「これは、泣いてるんじゃない」
大きな鳥の上で、プルクラッタッターが大きく笑いながら、兄と魔王に手を振った。
パピラターも申し訳程度に、視線を向け、笑顔を寄越す。
「パピラター!!」
魔王が、縋るように手を伸ばす。
「プルクラッタッター!ロケンロー!……パピラター!!」
魔王が、そのまま両手を振ってみせた。
眉がきゅっと歪み、泣いているのがもう誰の目にも明らかになった。
「パピラター……!元気で!!」
最後に大きな鳥は、城を一周した。
空高く昇っていく。
南へと飛んでいく。
遠ざかる二人と一匹を、魔王とケイタロウは、すっかり見えなくなるまで見送った。
もう永遠に会うことがなくても。
いつだって、あなたの事を想うから。
二人と一匹は、自分達の家に帰るために、山脈へ向かって行った。
「ルールイエでいい?」
「うん、私達の家へ!」
「早く帰ってご飯にしよー!」
「またヌシ釣っちゃう?」
「またお祭りになっちゃうね」
「それもいいかもしれないわね!」
というわけで、最終話でした。ここで一旦幕引きとさせていただきます。
『実は魔王の人形な魔女と実は転移者の魔法少女が魔王を倒しに行く物語』でした。
明日から、一話ものの番外編をいくつか書こうと思います。
ここからが本番!最後まで楽しんでいってね!




