130 だから、物語はここで終わるのです(1)
「え……」
パピラターが驚いたのは、窓を覆い尽くすほどの鳥が飛んできたからだけではなかった。
“安寧のエレボス”は、ジャラジャラと重そうな宝石のネックレスを、これでもかというほど何重にも巻いていた。
眩しいほどの。
プルクラッタッターが、困った顔で笑った。
「お土産、だって」
パピラターが悲しそうに笑うので、プルクラッタッターの胸は締め付けられた。
けれど二人は、いつまでも悲しんでいるわけにはいかなかった。
何せ、大きな開け放たれた窓から、大きな鳥の羽ばたきが直接入ってくるのだから。
装飾はほとんどないとはいえ、申し訳程度にかかっていた壁のタペストリーや、布団、棚の上に置いてあった蝋燭立てなどが、鳥が羽ばたく度にガシャリと落ちた。
「…………」
パピラターは、思考を停止させたようにじっとその光景を眺めると、
「そうだね」
と言う。
「帰ろうか」
パピラターの声は静かだった。
プルクラッタッターがパピラターの手を取る。
「帰ろう」
きゅっと手を握ると、パピラターがプルクラッタッターの顔を眺めた。
パピラターが柔らかく微笑むと、それに応えるようにプルクラッタッターが笑った。
それから、二人は時間をかけて、ケイタロウが持ってきた食事を食べた。
プルクラッタッターは、兄のことを思い出す。
なんだかんだ、いつだって心配してくれるのだ。
一人暮らし同士、都会に出てきた兄妹二人。
実家が遠い分、気を遣ってくれていたのかもしれない。
妹が風邪を引いたと聞けば、見舞いの品を持ってきてくれた。
大量のリンゴだったこともあれば、欲しかったゲームソフトだったこともあった。
……お兄ちゃんも、魔王と幸せにね。
心の中で、こっそりと思う。
それは、静かな昼過ぎの事だった。
その日、山脈より北側では珍しく、空は明るい青に染まった。
暖かい日だった。
二人、いつもの服装で向かい合う。
パピラターは、夜の色のマントに、大きな鞄を斜めがけに。
手には、大きな杖を持った。
プルクラッタッターは、ロケンローの力を借り、魔法少女の格好になった。
「おっけ?」
「おっけー」
腕を合わせ、笑い合う。
「じゃあ、行こうか」
プルクラッタッターが窓をバン!と開け放つ。
パピラターが、口笛を吹いた。
「“安寧のエレボス”!」
呼びかけると、赤と黒の大きな鳥が、窓に飛び込みそうな勢いで向かって来る。
ジャラジャラと巻いた宝石で出来たロープを二人で掴み、鞍の上に跨ると、二人でなんとか鳥の上に乗ることが出来た。
後ろからのんきな顔でついてきたロケンローも、宝石に巻き付くように掴まった。
「行けそう?“安寧のエレボス”」
聞くと、甲高い声で元気な返事が返ってきた。
帰ろう、私達の家へ。
残り1話でエンディングにして、その後は1話ものの番外編を5つくらい書いて終わりにしようかと思います。
最後まで楽しんでいってね!




