128 新しい出発(3)
連れて行かれた先は、城の庭だった。
「ここが一番明るいんだ」
と言う場所であっても、空は曇り空で、明るいと言うには物足りないくらいだ。
そこは、草原になっていた。
「気持ちいいね」
プルクラッタッターが微笑む。
嘘ではなかった。
確かに、頬を撫でていく風は優しく、心地いい。
ケイタロウが、そこにあった木になっていた実をひとつむしりとり、プルクラッタッターに投げる。
とさっと手の中におさまった実は、どうやら柿のようだ。
「本当は"騒乱のニュクス"達のなんだけどさ」
言いながら、ケイタロウは自分の分もむしりとった。
「そうらん……」
ケイタロウが草原でごろりと横になる。
プルクラッタッターも、近くに座った。
風が吹いている。
プルクラッタッターは、少し渋い実を齧った。
「俺はさ、魔王を殺されたくないんだ」
プルクラッタッターが、ケイタロウの方を見る。
「私もだよ。パピラターが死んでしまうなんて、絶対嫌だ」
「……先王の時代とはいえ、アイツに責任がないわけじゃない。パピラターが閉じ込められていたのも、人間を殺してまわったのも、アイツには、もっとやりようがあったんじゃないかって思うよ」
ケイタロウは、遠くを眺め、
「最初から俺がついててやれてたらな」
なんて、運命を呪うようなことを言った。
「我が儘過ぎるのはわかってる。許せないものだっていうのもわかるよ」
「魔王をどうするか私が決められることじゃないけど。もし、パピラターが魔王を閉じ込めて、人間の殺戮がもっと拡がったら、パピラターは後悔するんじゃないかと思う」
「だろ。お前らさ、ここから逃げろよ」
「逃げるって……」
「俺達だって許してもらえると思ってるわけじゃない。ただ今は、俺たちのことを殺さないで欲しいんだ。この国が、軌道に乗るまで」
俺達。
それは、ケイタロウのことも含んだ言葉だった。
お兄ちゃんは、気にしてるんだ。
三ノ宮あきを死なせてしまったことを。
……あんなの、お兄ちゃんのせいなんかじゃないのに。
「さよならなんて言わなくていい。ただ、お前らが、幸せに暮らしていくことを願ってる」
「……うん」
「それで、さ」
ケイタロウが立ち上がる。
「渡したいものがあるんだ」
「……?」
「土産っていうかさ」
ケイタロウが、空を眺めた。
逃げる、か。
パピラターが魔王にもう会わなくていいというのは、私も同意だ。
万が一会って、魔王を殺してしまったら、パピラターまで居なくなってしまうのだ。
このままこの場所を離れた方が、いいのかもしれない。
ケイタロウが、高く響く、口笛を吹いた。
プルクラッタッターが兄から貰ったものとは……。




