123 君を救うヒーローになる(5)
魔王とパピラター。
二人が向かい合う。
玉座に座る魔王は、パピラターを一瞥し、そして、何事も無かったかのように窓の外を眺めた。
パピラターは、そのまま堂々と玉座の前まで歩いていく。
蝋燭ばかりが並ぶ、暗く大きな部屋の中。
他に人は誰もいない。
「…………ポフ」
ポフと呼ばれた魔王は、またパピラターの方を向いた。
二度しか会っていないその姿。
けれど、間違いようもない。
赤紫の揺れる長い髪。
パピラターそっくりの顔。
パピラターの心臓が、きゅっと縮む。
似ている誰かならいいと思った。
思い出の人じゃなければいいって。
まだ、あたしは期待していたんだろうか。
家族としてこの人が、目の前に現れてくれるって。
魔王は、自嘲気味な笑顔で、パピラターに笑いかける。
「パピラター。久しぶりだな」
カツン、とパピラターの杖が音を立てた。
「謝っても謝りきれないな」
ため息を吐きながら、魔王が立ち上がる。
「何を……」
「我には必要だったのだ。この座に座るために。実力と、実績と、父への忠誠が」
そうだった。
魔王の子供だからと、約束された道ではなかった。
有力な魔族は、何人もいた。
派閥ができ、対立した。
ポフ派の者達のトップに立ち、荒波を掻い潜るように。
この国の民を守るため。
先代までの悪習を断ち切るため。
殺したくない人間を殺した。
自分の手を汚すことなどなんでもなかった。
今後、殺人や奴隷を断ち切るための、必要な最後の犠牲だ。
この地位が必要だった。
あのパピラターの顔を見ても、なんともなかった。
パピラターがこちらを見ているということは、パピラターは生きているということなのだから。
「そんなことで……!人間を、殺して回ったというの。そんな……自分勝手なことで」
「ああ。我はどうしても欲しかったのだ。この地位が」
「あなたに殺された人達にも、そこに生きてた!ゲームの駒なんかじゃなく」
パピラターが、杖を構える。
「いいのか?我が死ねば、お前も死ぬぞ」
その言葉は、パピラターが魔王の人形であると裏付けるのには、十分な言葉だった。
「覚悟の上だわ」
魔王は、パピラターに殺されるのであれば、それは仕方のないことだと思っていた。
殺されても、仕方がない。
それだけの事を、してしまったのだから。
けれど、まだ、この国は安定していない。志半ばで、折れることはできない。
自分が死ぬ事で、パピラターが死ぬ事を受け入れることはできない。
玉座に立てかけてあった剣を手に取り、鞘から抜く。
鞘はそのまま投げ捨てた。
「そう易々と、殺されるわけにもいかなくてな」
魔王が、パピラターを見下ろした。
「代理人として……」
言いかけた時、魔王が剣を構え、飛び出した。
「…………っ!」
いよいよもうすぐラストですね!最後までどうぞ楽しんでくださいね!




