120 君を救うヒーローになる(2)
静まり返った城の中。
パピラターは、この城の中枢に入ったのは初めてだった。
……この城、どこも暗いのね。
それでも、かつてパピラターが閉じ込められていた部屋ほどは、どこも暗くない。
だって、この城には、あの塔以外は窓があるのだから。
かつてパピラターは、窓もない狭い部屋に閉じ込められていた。
服もほとんどない。
自由に食べられるものもない。
お風呂だってない。
あるのは仄かな数本の小さな蝋燭だけ。
その異様さに気付いたのは、パピラターが一人、この城を抜け出してからだ。
まだ10歳ほどの子供だった時。
ボロボロになって、山脈を抜けた。
数日、食事もないまま、草の上に寝転がった。
けれど、その草の感触は、今までに感じたこともないもので。
ひんやりとした地面の冷たさは、やっと自分の力だけで手に入れたものだと感じることができた。
ここでなら、死んでもいいと思った。
やっと手に入れた空の下。
この空を抱えて死ぬことが出来るのなら。
全てを放棄して気を失った後、気付けば、パピラターはベッドの上に居た。
山脈のそばにある小屋の中。
一人の女性が、そばに居た。
50代くらいだろうか。
長いシンプルなワンピースを着ており、どうやら魔女のようだ。
「…………」
ほぼ、他人と話すことがないパピラターは、どう言葉をかけていいのか迷ってしまう。
「あら、起きたわね」
「えっと、あの……」
「倒れた所を拾ったの」
ふわっと笑う、ふんわりとした人だった。
「ありがとう、ございます。助けていただいて」
「とりあえず、元気にならないとね。あなた、名前は?」
「あたしは、パピラター」
それが、師匠との出会いだった。
パピラターに帰る場所がない事に気づいた師匠は、パピラターを弟子にしてくれた。
そして、山脈からずっと離れた町の師匠の家に戻りながら、パピラターに魔法というものを教えてくれた。
ある日の、宿でのことだった。
「…………っ!」
パピラターの目の端に、何かが映り込み、ビクッとした。
な……今の、何?
立ち上がり、くるくると辺りを見回す。
パピラターが、壁のとある一箇所に気がついた。
……窓かと思ったけれど、違う。
そっと、近づいてみる。
それは確かに、パピラターが居る部屋の中をくっきりと映していた。
それは、鏡だった。
真っ暗な小さな部屋の中で生活していたパピラターは、鏡というものを見たことがなかった。
時々こっそり忍び込んでいた城の図書館にもそこまでの道のりにも、鏡は存在しなかった。
窓ガラスにもこちら側は映るけど、もっとくっきりと見える……。
不思議な感覚。
そして、パピラターは見た。
自分の顔を。
それは、生まれて初めての体験だった。
「…………」
これが……あたしの顔?
手で、鏡に映る自分の顔をなぞった。
どうして……。
どうしてポフに似てるの……。
ラストへ向けて!
パピラターは魔王の元へ……!




