119 君を救うヒーローになる(1)
「ど、どうしたの」
“騒乱のニュクス”に乗ったケイタロウに、慌てて引っ張り上げられる。
「魔女が、魔王を殺しに行ったんだよ」
「え、どうして?」
「どうしてって、元々魔王を殺しに来た魔女だろうが」
不満そうな顔のケイタロウが「飛べ」と声をかけると、ぶおん、と“騒乱のニュクス”が空へ浮かび上がる。
プルクラッタッターの鞄の紐に、ロケンローががっしり掴まった。
「だって……っ、パピラターは……自分のこと魔族だって……。魔王の味方だって」
「あ〜、魔族……。魔族なぁ」
“騒乱のニュクス”は、魔王城へ向かって飛んでいく。
風は冷たいものの、思った以上に安定した飛び方に驚いた。
「確かに魔族だ。正確に言えば、“魔王の人形”」
「人形……」
プルクラッタッターには、それが、ロケンローが持つ意味と同じだということが分かった。
「それも、魔力の塊故に、恐れられて、閉じ込められて生きていた魔族だ」
「え…………?」
閉じ込められて?
閉じ込められて、というと、魔王の城に閉じ込められるお姫様みたいな感じだろうか。
それとも、ラプンツェルみたいな?
プルクラッタッターは、その言葉が、想像以上でない事を願う。
「何でそんなことに……」
「魔力から生まれた人形は、魔力量も多い。暴発する可能性もあるからな。だからと言って、基本的には普通に生まれた者と、変わらないはずなのにな」
飛んでいく下で、森がグングンと通り過ぎる。
「閉じ込めたのも、知り合いを殺して回ったのも指示したのは先王だ。けど、その先王の言いなりになって動いていたのは現魔王だから、魔女には恨まれてるんだと」
「だから……殺す?」
殺す?
攻撃してきたパピラターを殺せば、魔王の安全が保たれる?
魔王を殺せば一件落着?
ううん、違う。
「そんなこと……したら、パピラターだって、死んじゃうのに」
そうだ。
魔王とパピラターは、一つの命を共有している。
プルクラッタッターとロケンローみたいに。
プルクラッタッターが死ぬと、ロケンローも道連れに死んでしまう。
つまり、魔王を倒してしまえば、パピラターだって……。
「そういうことだ。あの魔女は、魔王に殺されるか、魔王を殺して自分も死ぬか。どっちにしろ死ぬ覚悟をしているって事だ」
「そんな……。嘘…………」
だから、置いていかれたっていうの?
嘘までついて……。
「やだ……」
「ああ、俺だって、魔王が死んだら、困る。どっちにしろ死ぬからって爆発でも起こされたらたまらない」
「い、急いでお兄ちゃん!!」
「分かってるって!」
けれど、森をどれだけ行っても、パピラターを見つける事はできなかった。
魔王の城は、もう目の前に聳え立っている。
そんなわけで、パピラターの正体は……、という話です。




