114 遠い旅路
荷物を手早くまとめ、ドラゴン一匹ずつと握手を交わすと、プルクラッタッターは早々に竜の山を出た。
「とはいえ」
プルクラッタッターはロケンローと、山の向こうを眺める。
「どっちの方向に行けばいいか、わかんないんだよね」
ロケンローが、分厚い雲の向こう側を、「むーん」と眺めた。
空。
森。
視界に入る範囲では、あまり町のようなものは見えない。
気持ちはあせる。
けれど、無闇に歩けば、パピラターに追い付けなくなる。
「あ」
ロケンローが声をあげた。
「あれ、城じゃないかな」
城……?
森の向こう側。
遠くに、大きく暗い尖った搭が見える。
それは、確かに城だった。
「ほんと……だ」
小さな希望が見えた気がした。
「あそこへ向かおう。パピラターもあそこへ向かってるはずだよ」
「うん、そうしよう」
そう決めたはいいものの。
歩くための道のない山。
それももうここは、魔族の管轄なのだ。
一直線に飛んでいくわけにもいかない。
あまり目立たないように行かないと。
変身し、城の位置を確認しながら、できる限り地面に近い場所を行く。
大きな岩山の陰を渡り歩くように。
この速度じゃ、パピラターに追い付かないかもしれない。
この山がもし、来るときのように風が渦巻く山だったら?
もう少し下へ行けば、風で飛ぶことはできなくなるかもしれない。
そうなると、城の位置を確認しながら行くことが難しくなるかもしれない。
不安ばかりを胸に抱えながら、黙々と、プルクラッタッターは山を降りていく。
晴れているのは、どちらに有利なことだろうか。
その時、
「……ん?」
ロケンローが何かに気づいた。
「どうしたの、ロケンロー」
「何か……鳴いてる」
「え……」
耳を澄ませると、確かに動物の鳴き声がする。
それは、間違いなく複数いて、何か会話をするように呼びあっている。
ただの動物ではない予感がした。
なんだか、険しい声で、しゃべっているみたいだ。
……魔物の……声。
「隠れよう」
咄嗟に隠れて正解だった。
段々と、耳を済まさなくても聞こえるようになったその声は、段々と、数も増していく。
数十頭では、きかないかもしれない、驚異的な数。
そしてそれは大きな波のように、岩の隅に隠れているプルクラッタッターのそばを通りすがった。
それは、カモシカの波だった。
飲まれないよう、隠れているので必死だ。
何……これ…………。
萎縮してしまいそうな威圧感。
じっとしていると、また静かになる。
波の後に残され、その岩山に立ち上がってもまだ、残っている恐怖。
岩ばかりの山。
青が強い空。
プルクラッタッターは、ただそこに立ち尽くした。
立ち尽くしてしまったので、気が付かなかったのだ。
その羽ばたく音に。
そして、大きな影が、プルクラッタッターの上に覆い被さった。
山は山脈のどちら側も強風が吹いており、空を飛ぶことはままなりません。




