107 月明かりの下で(2)
その夜。
プルクラッタッターは空を眺めた。
頭上の、岩山で切り取られた絵画のような空。
「……プルクラッタッター」
「……!」
突然、後ろから声をかけられて、後ろを振り返る。
そこには、パピラターが、困ったような笑顔で立っていた。
「パピラター」
プルクラッタッターがにっこりとパピラターを迎え入れる。
月に照らされた泉が綺麗だという話。
ヤッコと話をした時にも、寝る前にも、今までパピラターがそれを気にした素振りは見せなかったし、プルクラッタッターも一言も話さなかったのに。
けれど、それが気になっていて出てきたのかと、少し嬉しかった。
プルクラッタッターは、パピラターの手を取る。
「泉まで行くでしょ?」
そう聞きながらも、プルクラッタッターは、答えを聞くこともなくパピラターの手を引いていた。
確かに、パピラターは、月明かりの下の泉の話が気になって、外へ出てきたのだった。
そしてプルクラッタッターの気配がしたので、様子を見ようと声をかけたのだ。
早足で、坂道を下りる。
いつもドラゴンでごった返している穴の中は、今は一匹も見当たらない。
「プルクラッタッター、早いわ」
困ったようにパピラターが言って、それでもプルクラッタッターは足を止めようとしない。
むしろ、少し足を早めたくらいだった。
「プルクラッタッター、早いわ!」
パピラターがもう一度言ったけれど、今度は、笑い声混じりだ。
二人は、もうすっかり手を繋いで坂道を駆け下りていた。
扉のないドラゴンの住処の中。
大きな声を出すわけにもいかず、声を押し殺して、二人して笑いながら走った。
もう最下層かと思われる場所へついた頃、キラキラとした泉が見え、プルクラッタッターが笑いながらブレーキをかけた。
「きゃあっ」
パピラターが明るい悲鳴を上げながら、プルクラッタッターに突っ込んで行く。
その勢いで二人は、地面に転がった。
パピラターが持っていた杖も、コロンコロンと転がった。
座り込んだ泉の畔。
真上にある穴の先に、月が輝く。
その月明かりがスポットライトのようにドラゴンの山を照らす。
原石から覗く水晶が、眩しく煌いた。
泉の水面が光る。
「本当に……きれい……」
プルクラッタッターが周りを見渡しながら言う。
パピラターは声には出さなかったけれど、まるで泉の煌めきが瞳に移ったかのように、キラキラとした瞳になっていた。
プルクラッタッターはブーツと靴下を放り出すと、泉の縁に腰掛ける。
「…………」
きっと、こんな山の上の水は、冷たいに違いない。
「入っていいの?」
パピラターが、覗き込んだ。
「うん。ドラゴン達は、ここで水浴びしてるって」
「確かに、ちょうど良さそうな水」
プルクラッタッターは、ドキドキしながらも、足の指を、恐る恐る泉につける。
「つ、めたくない……」
水は、思いの外、冷たくはなかった。
かといって、温かいわけでもなかったけれど。
山から湧き出す水は、少しだけ温かいのかもしれない。
なんとか足がつきそうな泉の中。
プルクラッタッターは、そっと泉の中へ入ってみた。
軽いデートな感じです!




