100 竜の山(1)
そんな道のりを、2日ほど続けた。
魔法がかかったコートや寝袋のおかげで、寒さを感じることはなく、険しい道のりもなんとか歩くことができた。
この調子でなんとか山を越えられるんじゃないかと思えた、そんな朝の事だった。
相変わらず風の中を歩いていた。
ブワッと風が巻き起こった瞬間、リボンを解くような音がして、プルクラッタッターの変身が解けた。
「えっ……」
「どうし……」
プルクラッタッターとパピラターが、揃ってロケンローを振り返った時、ロケンローは、その場にひゅるる〜と落っこちてしまった。
「ロケンロー!?」
クタッとなったまま、ロケンローが動かなくなる。まるで、生気を失ったぬいぐるみのように。
「えっ……」
一瞬、何が起こったのかわからなくなる。
まさか、魔法少女の妖精さんが倒れるなんて……。
「嘘でしょ……」
追い風に乗って慌てて拾い上げる。
両手にすっぽり収まる小さなドラゴンは、荒い息をしていかにも苦しそうだ。
「パ、ぱぱパピラター!」
風から庇いながら、パピラターの元まで行った。
「これ……」
言いながら、パピラターが、ロケンローの頭をぺたぺたと触った。
「魔力で熱暴走……してる」
パピラターは空を見上げる。
「もうすぐ、風が止むから、そこまで行きましょう」
そして二人は、山を登った。
それから程なくして、山を登る二人の周りから、音がなくなった。
実際に音がなくなったわけではなかった。ただ、風が止んだだけだ。
けれど、まるで無音の世界に突然入り込んでしまったみたいに、ずっと耳元でごうごういっていた音がなくなった。
そこは、山のてっぺんにほど近い場所だった。
相変わらず周りは岩肌だらけで、木の一本、草の一本も見かけることがない。
空が、近い。
「パ、パピラター」
プルクラッタッターは、ほとんど泣きそうだった。
それというのも、手の中にいる生き物が、息苦しそうにしているからだ。
パピラターが神妙な顔つきになる。
「ロケンローって……、"人形"……なのね」
「人形……?」
それは、きっとプルクラッタッターの知っている意味のものではない。
けれど、その冷めた言葉に、プルクラッタッターの背中に冷たいものが落ちた。
「それって、どういう……」
パピラターが、なんと答えようか考えながら、ロケンローの頭を撫でる。
「魔力の塊が、生物を作り出すことがあるの」
「…………」
そうだ。
ロケンローは、プルクラッタッターの魔力から生まれた、ドラゴンの形をした魔法少女の相棒の妖精さんだ。
「生まれたばかりの人形は、魔力を管理しきれず、こうして熱を出すことがあるんだ」
「それって……」
「安静にしていれば大丈夫。けど……ここじゃ身体が弱ってしまうわ。どこか、休める所を探しましょ」
プルクラッタッターは、混乱しながら、ロケンローの顔を見る。
目をギュッと瞑ったロケンローは、力のない子供でしかなかった。
「…………わかった」
山といえば、ドラゴン!
といっても、ロケンローは正確にはドラゴンではないですが……。




