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CLOSS  作者: 山城もえ
ミンシア編 第1章
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第6話「私の宝物」③

「はい、これで大丈夫ですっ。南西部の一次調査結果、こちらでまとめておきますね!」

「ありがとよ、ピアニちゃん」


騎士団本部前に設置されたテントで、ピアニはシルム隊を離れて1人パタパタと忙しなく働いていた。


「ピアニちゃん、ずっと働き通しでしょ。そろそろ休憩に行っておいで。」

「あ、ありがとうございます!」


昼過ぎから開始された、主都に常駐する騎士団の合同任務。主都の警護を担当する第二部隊を除いた、第一部隊、第三部隊、第四部隊は、主都で流行している原因不明の病を解決する手がかり……、「西国の意志」を探し、割り当てられた場所に赴き捜索を続けている。ピアニは回復効果のある魔法が使えることを理由に、拠点となる騎士団本部で救護と情報の整理を担うことになった。


「皆、大丈夫かなあ……」


日はもう傾きかけている。三部隊を合わせると相当の数の騎士が動いているにも関わらず、拠点には全くと言っていいほど情報が集まっていなかった。


「隊長たちが言ってた通り、先は長そうだなあ」


ピアニは目についた店でミックスジュースを買い、適当なところに腰をかける。休憩とはいえ、することがなかった。素材にこだわったらしい割高のミックスジュースは、飲み終わったら任務に戻ろうかな、と考えているうちに、あっという間になくなってしまった。


「すごい……さすがノネット、主都上層のミックスジュース……」


空になったカップを覗き込む。そういえば店の横に、ゴミを捨てる場所には見えないほど綺麗なゴミ箱があったはずだ。飲み終わったカップを捨てようと立ち上がると、どんっと人にぶつかった。


「いたた……、ごめんなさい!」


ぶつかった拍子に頭を下げる形となり、そのまま顔を上げる間も無く反射的に謝罪をした。ピアニにぶつかった男性は、静かに立ち尽くしている。怒らせてしまったかもしれない。


「……ケケケ」

「え?」


どこかで聞いたことがある笑い声だった。ピアニが驚いて顔を上げると、目の前にいたはずの男はもういない。


「あれ? え? 」


辺りを見回すと、噴水の向こうの白く舗装された階段を登っていく男が見えた。


「やっぱり!あの人、カルマートで会った……」


―……知らずに踊るのも、知ってるつもりで踊るのも大差ねェ。結局は踊らされてるって事実に変わりねェんだ。舞台だと思っているその場所は、誰かの掌の上、かもしれねェぜ。……―


「変な人……」


呟きが届くはずのない距離で、男は階段を登る足を止め、ピアニへ向かってゆっくりと首を動かした。


「え、今、目合った……? 」


大きな口がニヤッと歪んだかと思うと、また男は歩き始める。


「あ、まって!」


高い背丈で特徴的な歩き方後をする男を追い、ピアニは走り出した。必死に足を動かすが、足の長さが違うせいか、一向に追いつけそうもない。しかし、その背中を見失うこともない絶妙な距離を保ったまま、男は歩き続ける。

変だと感じる心の動きは、好奇心とよく似ている。追いかけろと言わんばかりの男の行動は、ピアニの足を動かし続けた。

ピアニの息が上がり始めたころ、男はある建物へと入っていった。


「……ここは……国立図書館? 」


王城と見違うほどの荘厳な佇まいは、静かに一般人の入館を拒否しているようだった。実際、主都シンフォニアは、第一層のソロから、シンフォニア城のある第十層のデクテットまで、身分によって階級分けされ、住み分けがなされている。公共施設も、それぞれの生活階に見合った場所に、見合ったものが用意されている。第九層であるノネットには、王族や上級貴族しか入れないような公共施設が多く立ち並んでいて、国立図書館もそのひとつだ。


「あ、あの人……、もしかしてものすごく偉い貴族様だったり……? ど、どうしよう……」


一般家庭で育った、第三層トリオ出身のピアニにとって、国立図書館は憧れの場所だった。特殊な専門書に関してはカルマートには及ばずとも、貴重な蔵書が多く、閲覧制限がかかっているものもあるらしい。


「……はっ! そういえば私、今は西国騎士団シルム隊所属の騎士……だもんね! とりあえず、中に入るくらいなら、い、いいよねっ」


意を決して重く大きな扉を開けると、高級宿泊施設のエントランスのような空間に、大きな受付カウンターがあった。どうやら、図書館に入るには身分証明書が必要のようだ。


「うう……、入ってみたい……。シルム隊の騎士だって言ったら入れてくれるかなあ、だめかなあ」

「何してんダ」

「きゃあっ」

「ケケケ。こっちだヨ」

「えっ、あ!まって」


どこからともなく現れた男は、ピアニの頭を一度ぽんと撫でた後、またスタスタと歩き出す。明るいエントランスに背を向けて、関係者以外立ち入り禁止、と書かれたそっけない扉を、当たり前のように通りぬけた。


「あなた、こんなとこで何をしているんですか? 国立図書館に用事があるなんて、もしかして凄い貴族様だったり……? でも、この前は騎士の格好をしてましたよね、今だってラフな格好してるし……。あ! そもそも、私に何か御用ですかっ? 」


気になることを思いつくままに口にするピアニに対し、男はにやにやと笑うばかりだ。


「また何も教えてくれない」

「……自分で調べるンだロ?」

「だから今質問しているんですっ……って、こんなところを通るんですか!?」


男は暗がりの中で唯一仄かに光っている小さな扉を開け、覗き込んでいる。


「俺ァ通れねェな。ほれ」

「きゃっ、な、何するんですかっ」

「ちっせェぴーコならいけるだろ」

「私だけで行くんですか!?」

「ソユコト」

「そんな、あ! ちょっと! 」


トンっと背中を押され、押し込めれらたのは、ピアニの背丈くらいの通路だった。背中の方で、ガチャンという音がした。


「まさか鍵……」

「真っ直ぐだ」

「え? 」

「真っ直ぐ行って突き当たりを左。三番目の曲がり角を右。一番目の曲がり角を右。さらに真っ直ぐ行って左左右」

「え、ええ? お、覚えられないっ」

「ケケケ。辿り着けたら合格ダ。ガンバレヨ」

「合格って……何の試験なんですかっ! ……。もしもし?変な人さん??」


返事はなかった。念のため扉を確かめたが、案の定、鍵をかけられてしまっていて開かない。


「行くしかない、よね……」


ピアニは意を決して歩を進めることにした。出口を探さなければ、休憩時間が終わってしまう。そっけない白い通路はどこまでも続いているようだ。

久しぶりに更新できました。

ピアニは臆病ですが、思い切りのいいところがあります。

恐怖心よりも好奇心が勝つのは純粋な心ゆえかもしれません。

危なっかしいことには変わりありませんが。

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