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第八話 フローチェ横綱、夜の街道でもふもふを拾う

 驟雨しゅうう

 という言葉がある、本降りより少し強い雨、ぐらいの意味だ。

 その驟雨が馬車の屋根を叩いている。

 時刻は夜半、真っ暗な森の街道を全速力で馬車は駆けていた。


 私たちはずぶ濡れになった夜会服を脱いで普段着、といっても外交の旅なので豪華なものだが、に着替えて人心地ついた。

 アデラも新しいメイド服に着替えたが、今は油紙のレインコートを上に着て馬車を走らせている。

 この雨の中、乏しい魔導灯で夜の街道で馬車を走らせるのは大変だけど、がんばってね。



 リジー王子は馬車の中で地図を広げている。


「リジー王子、この街道はどこへ向かいますの?」

「この道は通称、祈りの樹往還おうかんと言ってエルフの信仰の街へ繋がる街道だね。そこを通り過ぎると国境の樹という街までエルフの森共和国だよ」

「国境の樹の街までどれくらい掛かるのかしら?」

「馬車で三日という所だね。でも、大きな街を避けて、小さな街道村で泊まりたいから、もう少し時間が掛かるかもしれない」


 私たちは、アリアカの王都から世界樹の街まで一月ぐらい掛かったのだけれど、今は敵国になったエルフの森共和国で逃避行の最中だ、なるべく早く国境の樹にたどり着きたいわね。


 ミキャエル宰相のクーデター軍がエルフの森共和国全体を掌握するまで、少し時間がかかるだろう、一週間? 一ヶ月? だがその時間を越えると、エルフの森共和国軍と魔王軍が合同で編成をして隣国、ドワーフ大玄洞に攻め込むはずだ。

 アリアカ国境を侵すのは、その後だから、少しだけ時間の余裕があるわね。


 ああ、ファラリスをこの旅に連れてくれば良かったわ、竜になって空を飛べるあの子がいれば、アリアカまで一っ飛びだったのに。

 彼は、外交とかだるいと言って知り合いのお年寄りの竜の所へ遊びに行ってしまったわ。


 ガクンと馬車が乱暴に止まり、私とリジー王子は車内で踏ん張った。


「どうしたの、アデラ?」


 窓から首を出し、御者台のアデラに聞いた。


「それが、お嬢様」


 ドアを開けて前方を見ると、魔導灯のライトの中で何か子犬のような物が倒れていた。


「なにかしら?」

「イタチが馬車にひかれたのかな?」


 御者台からアデラが下りて来たので一緒に街道の真ん中に倒れた何かを確かめにいく。


 抱き上げてみると暖かい。

 濡れそぼって、あちこちに傷を付けた子犬? みたいね。


「子犬ですね」

「刀傷に矢がかすった傷もあるわ、どうしたのかしら、こんな子に?」


 子犬は目を薄くあけて、クーーンと鳴いた。

 ほわっと、私の心の奥に暖かい物が湧いて、胸の中のこの小さな生き物が愛おしくなった。

 今はべちゃべちゃだけど、この子は乾いたらモッフモフでしょうねえ。

 愛おしい。

 はぁどすこいどすこい。


「かえるも色々あるなかで~♪ 紫陽花よりそうアマガエル~~♪」


 あら、驟雨で濡れ鼠なので、ついカエルの甚句が出てしまったわ。


「お嬢様、そのワンコを拾っていくのですかー?」

「なによアデラ、可哀想じゃ無い」

「そんな事をしている場合ではないと思いますけど-」

「良いのよ、旅は道連れ世は情けよ」

「やさしいフローチェらしいね」


 リジー王子がふんわりと笑った。

 もう、嫌ですわ王子。

 はぁどすこいどすこい。


「居たぞっ!! 街道に出た!!」


 森の奥から槍や弓を持ったエルフ兵が飛び出してきた。


「アデラ!」

「はいっ!」


 私はワンコをアデラに渡し、重心をおとした。

 リジー王子も足を開き、腰を落とす。


 夜の街道で皇太子と皇太子妃候補がやるポーズでは無いが、かまう物か。

 私達は一繋ひとつながりの相撲取りだから!


「げえっ!! 逃亡中のアリアカの皇太子とスモー姫だぁっ!! や、奴があいつらの手に渡った~~!!」


 私たちを追って来たのではなくて、このワンコを追って来たの?


「や、やれいっ!! 一石二鳥とはこの事だっ!! 奴共々アリアカの皇太子達も殺せー!」


 罵声を上げて、鬼のような形相の美形のエルフ兵が襲いかかってきた。

 アデラがワンコを抱いて馬車の中に飛びこんだ。

 リジー王子が塗れた街道の上を滑るようにしてエルフ兵に接的し、竜巻トルネードすくい投げで槍兵を投げ捨て、付与効果で他の兵を巻き込ませて倒す。


 雨!

 あの技が有効だわ。

 私は隊長らしい、でっぷり太った嫌らしい顔だが美しいエルフのベルトを掴み膝を足の間にねじ込んだ。


 バリバリバリバリ!


「ぐわわわーっ!!」

「くらえ、稲妻サンダーやぐら投げ!」


 ドカーン!!


 驟雨の中での雷撃付与の効果は抜群だ!

 一群の兵隊が感電して倒れた。


「くそうっ!! 引け、引けいっ!!」


 エルフ兵達は倒れた仲間を引きずりながら森に戻った。


「お嬢様、森の中のエルフは危険です、深追いしないでください」

「そうね」


 馬車の窓から顔を出したアデラに止められて、私は森に入るのをやめた。


 私とリジー王子は顔を見あわせた。


「狙いは僕たちじゃないね」

「あのワンコを追っていたわ、どうしてかしら?」


 私は闇の中の森を見た。

 街道は蛇行しているから、あちらの方向は世界樹の街だわ。

 あのワンコはいったい?

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― 新着の感想 ―
[一言] 隊長はデブい身体に細面のイケメンフェイスが乗ってるんだろうか
[一言] もふもふ・・・ サブタイトルの回収がついに行われましたね!
[一言] 〉 私達は一繋りの相撲取りだから! ワンピース!(違……わない?
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