エピローグ のちに相撲四都と呼ばれる街々
アリアカ国王都、魔界魔都、ドワーフ大玄洞、世界樹の街は今では相撲四都とよばれて相撲興行が盛んな街です。
大相撲時代の発展のきっかけになったのが、世界樹の街を端を発するミキャエル宰相の乱でありました。
フローチェ皇太子妃の逃亡の旅は四つの民族を繋ぎ、そして相撲の楽しさ、奥深さを伝えました。
相撲が大陸全土に伝播していくのは、この事件がきっかけだったのです。
その頃の各地をすこし覗いてみましょう。
世界樹の街はエルフの街ですから変化はすごくゆっくりです。
ですが、じわじわと確実に変わり始めています。
「どうして妖精王はいつまでもフェンリル形態なんですかっ」
『そういうなキャブリエル元帥、この方が女性にもてるのさ、もふもふしてるからな』
「そういう所が反乱を招いたんですよ、反省してください」
『はいはい』
妖精王がチャラいのは変わらないですが、行政府では時限定年制が制定されました。どんなに有能なエルフでも五十年で職場を配置換えされる制度です。
これにより、地位の低いエルフの不満は少し軽減されたようです。
エルフの森共和国にも相撲ブームが到来し、バルハラ相撲協会の協力により、エルフの森大相撲が制定されました。
初代横綱にはゲスマン親方が就任します。
エルフ力士は体重が無く、力も弱いですが、敏捷性と精霊魔法をまとった魔法威力のある相撲が得意です。
世界樹武道館での相撲興行は連日、満員御礼です。
ドワーフ大玄洞は魔導列車の中央中継都市として発展しました。
アリアカ王都、魔都、世界樹の街に鉄道を延伸し、物流と人の動きの中心として発展していきます。
沢山の相撲部屋が出来、大体育玄洞にて、ドワーフ大相撲の興行がおこなわれます。
「次のエルフどもとの交流興行では、かならず私たちが勝つわよ!」
「はいっ、マミアーナ親方!」
ドワーフ大相撲の初代横綱はマミアーナ親方でした。
季節に一度のエルフ相撲との興行では、ゲスマン親方との横綱戦が両都市民の語り草になりました。
ドワーフと言えば鍛冶と相撲と呼ばれるほどに玄洞民は熱中しています。
大玄洞から山脈の反対側に向けて延伸された魔導列車は魔界に続き、首都、魔都に通じています。
魔界線では、ゴブリン教授が設計した魔界列車も走っています。
乱がはじまる前でも魔都では相撲興行が過熱気味でしたが、世界樹の街での魔王さまの敗北に魔物達の負けじ魂に火が付き、さらに過激になって行きます。
初代横綱の魔王さまに続き、西の横綱としてアリマ関が綱を取りました。
「俺ら魔物は力が強い、特殊能力もある。んだがなあ、逆にそれが足をひっぱる事もあるんだ。相撲は地力が大事だ。特殊能力に頼るんじゃあなくて、いっぱしの力士としての基本技が大事だ」
魔王さまの指導により、国民総力士とまで言われる相撲大国として魔界は成長していきます。
この魔界相撲にエアハルト関がデビューし番付を荒らし回るのは、もう少し後の話ですね。
アリアカ王都にも直通魔導列車が延伸し、物流や旅客、通勤に鉄道網は大活躍となりました。
友好国を救い、魔王軍を下した相撲に全国民は熱狂し、ますます相撲ブームが過熱していくのでした。
みな熱心に稽古を重ね、大相撲で星を競い合い、幾多の名勝負がアリアカ国技館で行われます。
国技館の裏庭を掃き掃除していたアデラは、空を見上げてため息をつきます。
「なんだか凄い事になっちゃったわね。まあ、いいか、お嬢様とリジー王子が幸せなら」
フローチェ親方とリジー王子は、この秋、アリアカ国技館で、クリフトン親方とククリ関と一緒に土俵にて華燭の典を行う予定なのです。
「華燭の典とはなんだっけ、ククリ」
「たくさん食べる宴会でしょうか」
クリフトン親方とククリ関のとぼけた会話を聞いて、エドガー関は渋い顔をします。
「あなたたちは……。華燭の典とは結婚式を上品に言った言葉ですよ」
「お、おう」
「あら……」
ちなみにこの土俵婚はアリアカ女子の憧れになり、アリアカ国技館での結婚式は大ブームを巻き起こしました。
フローチェ親方は相撲部屋の練習場でもくもくと稽古をしています。
お祝いごとが近いからといってうわついては横綱はできないのです。
静かに黙って激しい稽古をしています。
時々リジー王子と目が合い、少し甘い雰囲気がでますが、それくらいはお目こぼししましょう。
二人はとても幸せそうです。
さて、乱の張本人のミキャエル宰相はどこにいるのでしょうか。
彼はこのころ、南方のクリマコの森で行き倒れていました。
エルフの森のように木の実が自然に手に入るわけでもなく、水も探さないとなりません。
エルフの森共和国の宰相まで上り詰めた自分が知らない森で行き倒れているのが惨めでしかたがありません。
「おりょ、誰か倒れてるっ」
「行き倒れー行き倒れー、すごい珍しいっ」
「わあ、耳が尖ってる、イケメンッ、エルフだわエルフが落ちている」
騒がしいハーフリングの一群がミキャエル宰相を取り囲みます。
「どうしたエルフ? ハーフリングの里の近くで」
「ノラエルフ? ノラエルフ?」
「まあ、水でものめーっ」
ハーフリングたちはミキャエル宰相を介抱します。
「あ、ありがとう君たち……」
「きにすんな、困ってる人はおたがいさま」
「エルフは珍しいのよー、綺麗ねー、イケメンねえ」
「どうしたの?」
ミキャエル宰相はエルフに革命を起こそうとして失敗したと、事の顛末をハーフリングたちに語りました。
同情してくれるかな、と思っていた宰相ですが、ハーフリング達の反応は爆笑でした。
「あっはっは、馬鹿だなあ、あんたはっ」
「噂のオスモウに負けたんだ」
「何を笑うのかっ!!」
「あなたは誰かを進歩させたいんじゃなかったのよ、自分が偉くなりたかったのよ」
ハーフリング達の素朴な直感はミキャエル宰相の胸をえぐりました。
「そうかー、大失敗をしたんだなあ、うんうん、そういうときもあるよ」
「里においでな、エルフのお客さんなんか初めてだよ」
「うん、おいでおいでー」
「だ、だが、私には代償に支払える物が無い……。無一文なのだ……」
「生きてるじゃん」
「オスモウのお話をしてよ」
「大丈夫、なんとかなるってーっ」
自分の学んできた考えとはまったくちがう、子供のようなハーフリングたちの考え方にミキャエル宰相は心をうたれました。
――難しく考えなくてもいいのか。素朴に生きていていいのか。偉くなくても、利口でなくても良いのか。
なんだか自分がまったく無意味な事を大事に思っていたのではないか、そんな疑問がミキャエル宰相の心を揺すぶり、ぽろりと目から涙が流れました。
「泣かないでー」
「大丈夫大丈夫、死ななきゃ勝ちだよー」
「さあ、私たちの里に行こう、ずっと居てもいいよ」
「うんうん、頭の良い人は大事ー、オスモウのお話が出来る人も大事ー」
きゃいきゃいと騒ぐハーフリング達に手を引かれて、ミキャエル宰相は一歩、ハーフリングの里への道を踏み出しました。
そして、ミキャエル宰相が語ったお相撲のお話から、アレンジされたハーフリング相撲が生まれるのはもうすこし後のお話です。
はぁどすこいどすこい。