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第六話 業火トロール、アイキオ対フローチェ、決定戦

 腋をガポンガポンと鳴らしながらアイキオが土俵に上がってきた。


「がっはっは、やっぱり思った通りフローチェ横綱は良い相撲取りだ、戦えて光栄だぜ」

「ありがとうアイキオ関、あなたもギブン関も良い相撲取りね」

「ごっちゃんです」


 そう言ってアイキオはグワッと笑った。

 怖い顔なのだけれど、根は良いトロールみたいね。


 トロールというのは魔界に住む巨人の事だ。

 前世のアニメのムーミンもトロールの仲間だが、ああいう可愛い生き物では無い。

 二メートルを越す巨人種族で、高い再生能力を持つ。

 彼が炎をまとえるのも、その体質のお陰であろう。

 土俵にあがり四股を踏むと、その巨大さが際立つ。


 アイキオの体は筋肉で肩も腕も盛りあがっている。

 頑健で筋肉質な肉体にうっすら脂肪がついて、相撲取りというよりはプロレスラーに近い体型ね。


 すばらしい。

 こんな素敵な力士と戦えるとは喜ばしい事だ。


『みあってみあって』


 アイキオと私の呼吸がぴったりと合った。


 ダッシュする勢いで立ち上がり激突する。


 ドカーーン!!


「ぐおっ!」


 私の突進でアイキオが揺らいだ。

 右手で廻しをがっちりと取る。


「なんて勢いだっ、すげえっ! そんな華奢な体型でっ」


 アイキオは私の廻しを取る。

 がっぷり四つだ。

 彼が体勢を立て直す前に押し込んでしまえ。

 炎を使われる前に瞬殺だ。


 くっ。


 熱が来る。

 廻しを取った腕が焼ける。

 洗濯店のアイロンの匂いが立ちこめる。

 熱!

 私の突進は止められた。


「炎のアイキオを舐めんなよっ!!」


 ごおっ!


 アイキオの体が燃え上がった。

 なんという火勢か。

 私のドレスに引火しかねない。

 火だるまになる。

 すこし力が抜けて、押し込まれる。

 巨漢のアイキオの肩の筋肉がボコりと膨れ上がり、もの凄い突進力で私を押す。


 くっ!


 ずるずると後ろに押される。

 そして、止まった。


 足下が白い。

 白土俵に入ったようだ。

 多少火勢も弱まった気がする。

 だが、炎は炎だ。

 くうっ、熱い、痛いっ、ドレスは絹製だから着火はしにくいのが救いか。


 何か無いか。

 何か。

 こんな所で魔王軍に負けて、リジー王子共々捕まる訳にはいかない。

 私はアリアカの国を肩に背負っているのだ。


「あんたと王子は負けても非道な扱いはしねえと約束する」


 ぐっ!

 アイキオの甘い誘いに乗りそうになる。

 だが、私はアリアカの横綱、炎などに負ける訳にはいかないっ。


 炎を感じる。

 アイキオからだけではない、エルフの街のあちこちで火の手が上がっている。

 世界樹に炎が近づいている。


 緑の風の気配がした。

 なんだろう、別の力が接続してきている。


 世界樹が泣いている気がする。

 いや、世界樹だけではない、五千年にわたりエルフの森の街を守ってきた、街路樹、外壁樹、住居樹、あの迎賓館を作っていた城樹までが私の相撲システムに接続してきている気配。


”この街をお救いください、女神フローレンスさまの御使いフローチェさま”


 風が、土俵上空に結集していくのを感じる。


「ぐっ! なんだ、新しい技か?」


 アイキオが金剛力で私を押しながら困惑の声を上げた。


”お唱えください、風の戦式エア・バトルフォームと”


「フローチェ、がんばれーっ!!」

「お嬢様がんばってーっ!!」


 リジー王子とアデラの声が私に闘志をくれる。


 私は唱える。


「風の相撲エア・スモウフォーム!!」


 その瞬間! 上空から轟風が私の体に流れ込んできた。


「なんだとっ!!」


 熱が伝わらない!

 轟風が薄く私の体の表面を高速移動してるからだ。

 廻しを掴んでいる手にも薄膜のように風がながれ、熱を運びあたりに散らしていく。

 火花が飛び、火炎が渦を巻く。


「ば、馬鹿なっ!! なんだその風魔法は!!」

「なんだかは知らないわっ!! でも、これできちんと相撲を取れるようになったわっ、アイキオ関!!」

「くそっ! どこかのエルフが風の鎧の魔法を掛けたかっ!!」


 グレイ審判が辺りを索敵するが、そのような存在は居ない。

 そう、この魔法をかけたのは、エルフではない、街の植物全体の意思だっ!

 私は確信した。


 がっぷり四つに組んだまま、私はアイキオを押し上げる。

 ああ、相撲だ、相撲だ。

 私の相撲だ。


「ちっきしょー、だが、おもしれえっ、フローチェっ!!」

「楽しみましょうっ!! アイキオ関」

「応っ!!」


 ぐいぐいとアイキオを押していく、押していく。

 アイキオは凄絶な笑いを浮かべて押しを受け流し蹴手繰りをかけてくる。

 足をそらして技をすかし、そのまま彼の懐にすべりこむようにして腰に乗せる。

 だが、アイキオも重心移動で私の腰投げをすかす。


 ああ、巧みだな。


 火炎と轟風が渦巻いて私たちは太極図の土俵を舞い踊る。

 技を掛け合い、力と力がぶつかる。


「くそっ、なんだこの楽しさは、これまでやってきた俺の相撲はなんだよっ、すげえ、すげえよ、横綱!!」

「楽しいわね、アイキオ!」

「ああ、ちくしょう、ずっとずっとあんたと相撲を取っていてえっ!」


 私も同感だ。



 水の技だ。

 なにか水流を付与した技を掛けてアイキオを倒したい。

 たぶん、風の相撲エア・スモウフォームが掛かった今なら、水の技を風で巻き上げ豪雨を降らすことも出来る気がする。


 ジョナスの乱の後、アリアカの相撲興行では一度も新しい付与技は思いつかなかった。

 きっと命が掛かった相撲の場でないと付与技は生まれないのだろう。

 私が今使える技に水を生み出す物は無い。


 付与の属性は名前から?

 確かに仏壇返しの名から、”死”属性のデスが付与された気がする。

 だが、櫓投げに雷属性はない。

 掬い投げは風属性だが、掬う形の身体運動から来た物か?


 わからない。

 だが、水だ、水の付与技をあみだして、私はこの街を救う!

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― 新着の感想 ―
[一言] フローチェ親方は前回 >アデラ、相撲の力はなんでも出来る魔法の力ではないのよ。 > こ、これまではなんでも出来てる気がするけど、今回もそうとはかぎらないわよ。 とおっしゃってましたが。 …
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